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初恋はまだ 3話



誘拐犯だと思しき怪しい男と共に、私は男の運転する車に乗っていた。

「父の具合、どうなんですか?」
「えっ!あ、あの…ぼ、僕は詳しくはし、知らなくて…」
「…」

挙動不審の男は運転しながら、時折私からされる質問に答える度にハンドルをグラつかせていた。

(この人…こんなんで家から身代金要求出来るのかしら)

別にまだ誘拐犯だと確定した訳ではないけれど、私をこうやって連れ去る目的は其れしか考えられない。


車に乗ってから10分を過ぎた頃。

私は男に云った。

「トイレに行きたい」
「えっ!ト、トイレ?!」
「はい」
「家──ち、違った!びょ、病院まで我慢、出来ない?」
「出来ないです。もう漏れちゃう。あ、其処のコンビニでいいから止まってくれますか?」
「は、はぃ!」

男は慌てて通り沿いにあったコンビニに車を停めた。

「直ぐに済ませて来るから待ってて下さい」
「…あ、はぃ」
「…」

(この人…私が逃げ出すとか考えないのかしら)

つくづくおかしな男だ。

誘拐犯にしては間抜けすぎる。

(…これは)

私の考えは確信に変わっていた。

(この人と一緒に居たら面白い事が起きる!)



コンビニのトイレに入って携帯を出し電話を掛けた。

「あ、お母さん?私、杏香。あのね、急に友だちの由美の家にお泊まりする事になったの。うん、そう、文化祭の準備でね、私の他にも2人女子が一緒なんだけど…うん、うん…大丈夫、ちゃんと私から由美のお母さんに挨拶しておくから…うん、お父さんにもそう云っておいて、じゃあね」

両親には悪いけれど、こういう嘘の外泊は今に始まった事じゃない。

母はいい意味でも悪い意味でも子どもの云う事、やる事を信じているという放任主義者。

きちんとした連絡さえ入れておけば口煩く詮索したりしない。

父は母の云う事にはまず逆らえないからこういう時は母を制していれば大丈夫なのだ。

(本当はこんな嘘はダメだし、親を騙している事には気が引けるけど)

でも赦してね。

私は私の人生を思うまま生きたいんだから──



「お待たせ」
「あ、うん」
「はい、どうぞ」
「え」

車内でジッと待っていた男に私は缶コーヒーを差し出した。

「喉、乾かないですか?私は乾いたから」
「…あ、あり、がとう」
「どういたしまして」

これは異例の事だ。

私が自分から誰かに奢るなんて事、今までに一度だってなかった。

「あの、はい」
「え」

男は私の掌を取って其処に何かを置いた。

見れば其れは小銭だった。

「コーヒー代」
「要らないです──っていうか、なんで300円?多いです」
「僕の分と君の分」
「…」

其れだけ云うと、男はマスクを取ってコーヒーを飲み始めた。

(あ…顏、見えた)

帽子は目深に被っていたけれど、コーヒーを飲む時に上を向いた瞬間、男の顔が少し見えた。

(意外に整った顔、してる)

イケメンって程じゃないけれど、なんだか人柄が滲み出ている様な優しい顔をしているなと思いながら、私はついジッと其の顏を見つめてしまった。


──この瞬間、私は非日常的な世界に足を踏み入れたのだと確信したのだった

初恋はまだ
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