Darling Sweeper 16話



午後8時過ぎ──


手際よく魚介類の下ごしらえをしながら野菜を切ったりパスタを茹でたり、合間に洗い物を片付けたり…


「…はぁぁ~」


私は内野宮さんのそのひとつひとつの動作を流れる様に見ていた。


「なんかそんなにジッと見られるとやりにくい」
「あっ、ごめんなさい!つい、其の──」
「なんだよ、こんなの実家にいたら見慣れているものじゃないのか?」
「…うち、私が小学生の時に母が亡くなっているのでこういう風景、あんまり記憶に無くて…」

「あっ、そうだったな」
「……」


素っ気無い云い方。


だけど何故かそういう素っ気無さが私には嬉しい。


母が亡くなったというと不味い事を訊いてしまったとばかりに申し訳なさそうに謝って、そして慰めの言葉をくれる人が多いけれど、何故あなたに謝られて慰められるのだろう──といつも私は厭らしく考えていた。


そんな風に考える自分を気づかされるのが堪らなく厭だった。



「はい、出来た!座って食べよう」
「あっ……はい」


テーブルの上にふたり分のパスタ皿とサラダボウルが置かれた。


「いただきます」
「いただきます」


両手を合わせて挨拶をし、食べ始める。


前に定食屋さんで一緒にご飯を食べた時も思ったけれど、内野宮さんって食事の時のマナーがいい。


挨拶の仕草とか箸の持ち方とか食べる時の口元、何故かそういう処に目がいってしまう。


「何、美味しくない?」
「い、いえ、凄く美味しいです!!」
「だろ?!これは俺のレパートリーの中でも上位に食い込んでいるメニューなんだ」
「レパートリーって…内野宮さん、お料理好きなんですか?」
「まぁ好きっていうか、初めは必要に駆られてやり始めたんだけど」
「必要に駆られて?」
「俺も母親っていうの、いないんだ」
「え」
「あー恵麻んとこみたいに死んでないけど、ちょっと…な」
「……」


(そうだったんだ…)


内野宮さんもお母さんがいない生活を送っていたんだ。


かなり大きな共通点を知って益々内野宮さんに対してある種の感情が浮上する。


(…やっぱり私…内野宮さんの事)


ピロリンピロピロリーン♪


「あっ」


メールだと思った──瞬間


「プッ!おまえ、なんちゅー着信音設定してるの!」
「は?!」
「いや…俺的に其のメロディーラインはツボ!」


そう云ってアハハハハハと盛大に笑い始めてしまった。


(そんなに可笑しいかな?)


私は内野宮さんの笑いのツボが理解出来ないままメールをチェックした。


【無事に家に着いた?其れであの──早速で悪いんだけど明後日の日曜日、出掛けないか?】


メールは詠二からだった。


(明後日…急だなぁ…体調は大丈夫なのかな?)


メールを読んで思ったのが其れだった。


今日見た限りじゃマスクはしていたけれど、思ったより元気だった。


明日一日休めば体調万全、というところなんだろうか──


色々メールの返信内容を考えていたら


「──誰と出掛けるって?」
「え」


いつの間にか私の真横に移動していた内野宮さんが私の携帯を見ていた。


「ちょ、ちょっと!内野宮さん、何勝手に見ているんですか!」
「俺と食事しているのに携帯なんか見てボーッとしているからだ」
「ボ、ボーッとなんて…」
「していた」
「うっ」


(確かにちょっと返信内容を考えていた間、ボーッとしちゃったかもしれないけれど…)


ほんの数秒の事でしょう?!


「で?誰」
「…同じ研修グループの人です」
「名前は」
「名前って…内野宮さんに其処まで云う必要ないじゃ──」
「名前」
「うっ…」


(なんなのよ、この迫力)


なんで私、すっごい形相で睨まれているの?!


あまりにもな剣幕だったのでつい云ってしまった。


「…梅原さんです」
「梅原、何」
「詠二」
「名前を呼ぶな」
「は?」
「フルネームで云え」
「…梅原詠二」
「梅原詠二──訊いた事がある」
「え」
「あぁ、確かそいつも調査対象者だ」
「!」


『調査対象者』


其の言葉が持つ意味を知っている私はとても不安な気持ちになったのだった。


00000a31.jpg
★ランキングサイトに参加しています。

其々1ポチいただけると色んな意味で励みになります♪