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花筏の行方 6話



──こういう場面をいわゆる【修羅場】というのだろうか?


(いや…違う、よね?)

私は向かい合わせで座っている佐野さんと壱矢を交互に見た。

そして其の光景は私の心の中にある種の感情を呼び起こして、其のまま涙となって流れた。

「櫻子ちゃん、なんで泣いているの」
「あっ」

私の体にそっと触れた佐野さんの掌の暖かさに感極まった。

其の瞬間

「ちょ、あんた、なんで母さんに気易く触ってんだよ!」
「── え」

(あぁ…!云っちゃった…)

壱矢の口から出た言葉に佐野さんは固まった。

「離せよ!母さんを泣かせる下衆は誰であろうと絶対に赦さない!」

私の体に触れていた佐野さんの掌を壱矢はバシッと跳ね除けた。

固まってしまっている佐野さんは壱矢の行為になすがままで、そんな状態がしばらく続いた。

やがてハッと我に返っただろう佐野さんは私の前まで詰め寄った。

「櫻子ちゃん、か、母さんって何?!えっ、もしかしてこの男…の子ってむ、息子…なの?!」
「…」
「櫻子ちゃん!」
「…」

詰め寄る佐野さんにもう隠してはおけないと思い、静かに首を縦に振った。

「! …いつの間にこんな大きな子どもを…って誰、誰の子なの?父親は」
「…」
「櫻子ちゃん!」
「ご、ごめんなさい!」
「えっ」

私は佐野さんの前で土下座をした。

「この子は…壱矢は…」
「…」

私はもう何もかも限界だったのかも知れない。

だから神様はこんな波乱じみた機会を作ってくれたのだろうと──

「壱矢は…あなたの子です」
「!」
「えっ!」

明らかに佐野さんが動揺する雰囲気と、壱矢の驚いた声が聞こえた。

(あぁ…壱矢にも佐野さんにもバレてしまった…)

私は静かに顔を上げ、佐野さんを見つめた。

「…嘘…櫻子ちゃん、嘘、でしょう?」
「本当です、ずっと隠していて…すみませんでした」
「え、い、いつ?そんな…いつ」

佐野さんが顔面蒼白で私を見ている。

(こんなに動揺した佐野さんを見たのは随分久しぶりだな)

そう…19年振りに見た顔だなと思った。

「佐野さんは覚えていないと思いますけど…19年前…秋穂さんが清次さんと結婚した日に…酔った佐野さんから呼び出された時…」
「…覚えているよ」
「え」
「酷く酔っていたけど…櫻子ちゃんを呼び出したのは覚えている」
「…」
「秋穂が結婚して落ち込んでいて…誰かに縋り付きたいと思って、其の時浮かんだのは櫻子ちゃんだった」
「…」
「其の時……えっ、ま、まさか…あの時に?!」
「……はい」
「!」

19年前、私は秋穂さんの代わりとしてでもいいからと思い、佐野さんに抱かれた。

初めてを好きな人に捧げられたという悦びだけで私は其のたった一回を大切な思い出として心に秘め、佐野さんに対しては何も求めなかった。


──だけど初めてのセックスで、避妊されなかったセックスで私は妊娠してしまった


初めての事だらけで私は悩んだ。

誰にも打ち明けられず、ひとり悩んでいたけれどやっぱり父親である佐野さんにはちゃんと話した方がいいと思った。


「でも…云えませんでした」
「どうして!」
「だって…佐野さん……隠し子の事で大変だったじゃないですか」
「!」

出来れば云いたくなかった。

佐野さんにとってはあの出来事は心の傷になっているだろう事だから…

「だから云えなかった…」
「…隠し子って…陽南太の事?」
「……見ていられなかった…あの時の佐野さんを…」
「…」
「だから…云えなかったんです…」

記憶は19年前に飛んでいた。

今、この場には壱矢がいるのだという事も忘れて、私は今までの鬱積した気持ちを佐野さんに吐き出していたのだった。

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