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花筏の行方 8話(終)



「オ、オレの存在を忘れるんじゃない!」

20年来の恋が実った瞬間の甘い雰囲気は、壱矢の罵倒で打ち破られた。

「い、壱矢…」
「なんなんだよ先刻から!オレがいるのにイチャつきやがってっ」
「壱矢くん、いや、我が息子!」
「はっ?!」

いきなり佐野さんが壱矢にガバッと抱き付いた。

「俺が至らなかったせいで君にも随分迷惑をかけてしまったね!」
「な、何を…ちょ、は、離せよ!」
「厭だ、離さない!俺はもう間違えたくない!」
「!」

佐野さんの鬼気迫る言葉に暴れていた壱矢の動きが止まった。

「事情がどうあれ、俺の子どもである君を不幸にして来た罪は重いと思う。だけど過ぎてしまった時間をどうにかする事はいくら俺が男前で優秀だとしても不可能なんだ」
「…自分で云うか、其れ」
「だから過去の事は赦して欲しいと願う事しか出来ない。でも君という息子の存在を知った今ではもう絶対に何もなかったという事にはしない!櫻子ちゃんも、君も──壱矢の事も幸せにしたいんだ!」
「!」
「だからどうか俺を…君の父親としても…櫻子ちゃんの夫としても認めてくれないか」
「…」

佐野さんの気持ちを知った私は溢れ出る涙を抑える事が出来なかった。

(まさかあの佐野さんが…此処まで云ってくれるなんて…)

私はどれだけこの人に愛されていたんだろうと今になってやっと実感したのだった。

やがて壱矢はそっぽを向きながらボソッと呟いた。

「別に…不幸だった訳じゃない」
「え」
「母さんがいたからオレ、別に不幸じゃなかった」
「…」
「子どものオレには解らない事情っていうのがあったんだろうと…今だったら理解出来るし、其れに」
「…其れに?」
「と、父さんの事は…母さんはいつも凄くいい風に云ってて…凄く好きな人の子だからオレを産んだんだって…其れだけで幸せだっていつも云っていて…」
「い、壱矢!」

(其れを佐野さん本人の前で云われるのはとてつもなく恥ずかしい!)

「だからオレ、あんた── と、父さんの事、恨んでないから」
「壱矢くん…」
「先刻云った事…! 守ってくれればいいから。母さんを幸せにするっていうの」
「…壱矢」

自分の事を不幸だと思っていないと云った壱矢の言葉が母親としての私には最高に嬉しい賛辞で、また涙が溢れて来てしまった。

「もう!母さんは泣き過ぎ!」
「だ、だって…だってぇ…」
「櫻子ちゃん、俺、櫻子ちゃんを幸せにするから。だから泣くのはもう今日限りにするんだよ」
「……はい」


小さな想いが桜の花びらとなってユラユラ水面を漂う。

其の花びらが沢山集まってまるで筏の様に形を成す。


其の花筏は何処に辿り着くのだろう──?







「関さん」
「あっ…の、野々宮さん」
「陽南太でいいですよ。義理とはいえ親子になるんですから」
「…はぁ…じゃあ…お言葉に甘えて」
「来週の食事会、妻も出席出来るみたいなのでふたりで伺います」
「あ、そうですか。解りました、お店には此方から連絡しておきますね」

私と佐野さんの結婚話は瞬く間に進んで、佐野さんの息子である陽南太さんの知る処になった。

陽南太さんがどういう反応をするのかと内心ドキドキしていたけれど、いともあっさりと私たちを祝福してくれたので少し面喰った。

日取りがいいという事で入籍と其れを祝う身内だけの食事会というのを来週開く事になっていた。

「お願いします──其れと…」
「?」
「あの…父の事をずっと好きでいてくれてありがとうございます」
「!」

徐に頭を下げられてまた驚かされてしまった。

「見かけあんなで、ふざけた処も沢山あるんですけど…でも性根はとても慈悲深くて優しくて…かなりいい性格をしていると思いますので」
「…」
「どうか父と末永く寄り添って行ってください」
「ひ、陽南太、さんっ…」
「え── あっ!な、なんで泣いて──」

だって…


だってこれ…


(泣かないなんていう方が無理でしょう?!)


「あ、あぁぁぁー陽南太、なんで櫻子ちゃん泣かしているんだよ!」

「げっ…煩いのが来た。じゃ、じゃあすみません、俺、逃げますんで──また」
「あ、ありがとう!陽南太さん」

私の元に駆け寄って来る徹矢さんを照れ隠しに避けている陽南太さん。

其の去り際に微笑んでくれた陽南太さんの笑顔を見た瞬間、私の花筏の辿り着く先は光いっぱいの常しえなのだと確信したのだった。





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