初恋はまだ 5話(終)

斎藤 光輝と名乗った間抜けな誘拐犯と私は交際を始める事になった。驚いた事に光輝はなんと父の会社の社員だった。一年程前、社員家族を招いて行われたレクリエーション大会の時にたまたま参加していた私を見掛けて一目惚れして、以来思慕を強めて行ったという。一年の間で色々私の事を嗅ぎまわって、勿論私が不特定多数の男と付き合っている場面にも出くわしていて、其れでも其の想いは強くなっていったと告白した。「…光輝って本...

初恋はまだ 4話

車が到着したのは何処からどう見ても病院ではなかった。世間一般にマンションと呼ばれる建物の駐車場に止められた車の中で、男は俯いたまま黙り込んでしまった。「…此処、病院じゃないですね」「…」「病院に行くんじゃなかったんですか?」「…」「…」私の言葉に男は俯いたままなんの反応も見せなかった。(…仕方がないなぁ)私はシートベルトを外して車を降りようとした。其の瞬間「ごめんなさい!」「え」いきなり男は大きな声で...

初恋はまだ 3話

誘拐犯だと思しき怪しい男と共に、私は男の運転する車に乗っていた。「父の具合、どうなんですか?」「えっ!あ、あの…ぼ、僕は詳しくはし、知らなくて…」「…」挙動不審の男は運転しながら、時折私からされる質問に答える度にハンドルをグラつかせていた。(この人…こんなんで家から身代金要求出来るのかしら)別にまだ誘拐犯だと確定した訳ではないけれど、私をこうやって連れ去る目的は其れしか考えられない。車に乗ってから10分...

初恋はまだ 2話

私は叔父である潤への気持ちを吹っ切るために色んな男と付き合って来た。私が社長の娘だと知っている男は大抵お金目当てで近づいて来た。稀に私がいいなと思った男に私から告白しても、私の事を大して好きでもなくても、私の先に見えるお金目的でOKしてしまう有様だった。男の本性を確かめるために様々な嘘をついて見極める癖がついてしまった。結局の処、今まで付き合って来た男たちは私自身を好きでもなんでもなかったという事が...

初恋はまだ 1話

私の家はいわゆるお金持ち──という部類に入る家だった。私の父が滝沢グループという大企業の社長という立場である事から、自然と私には『お嬢様』という肩書きが付くようになっていた。だけど別に私が偉いんじゃない。父が偉いだけの話だ。私自身、お嬢様という肩書に満足している訳じゃない。だけどそんな私の心情を解ってくれる人はほとんどいなかった──「杏香、待てよ!」「…」「なんで急に別れるだなんて…そんな事云うんだよっ...

Dizzy Love 26話(終)

「おはよ~う」「あっ、いらっしゃい!」平屋の玄関扉を開ける音と相変わらず色っぽい声の主に台所から声を掛ける。勝手知ったるように家の中に入ってくる彼女を笑顔で迎えた。「まぁ~すっごい唐揚げの量ね」「ふふっ、諒さんも潤(ジュン)も大好きだからつい」「典ちゃん、忙しそうなのに愉しそうねぇ」「え、そうですか?」「うん、すっごくニコニコしてる」「…きっと幸せですから」「──そう」私は麗子さんと話しながらもおにぎ...

Dizzy Love 25話

「はぁ?!な、何云ってんだよ!!」彼の第一声は其れだった。「まぁ驚くのは仕方がないとは思うけど──そういう訳だから」「……よ、よろしくお願いします…」「……」にこやかな諒さんの隣で深々と頭を下げる私を呆然と見つめているのは十年振りに再会した翔ちゃんだった。私と諒さんが結ばれた日から数日後。諒さんから【結婚する】というメールを受け取った翔ちゃんが慌てて実家に戻って来たのだ。そして諒さんの結婚相手が私だと知...

Dizzy Love 24話

やっと私は諒さんを手に入れる事が出来た。「はぁ…あんっ…」「ふっ…ん」私と諒さんは無我夢中でお互いを求め合った。「あ!あぁぁっ…んっん」「…んっ…典子」「りょ…諒さ…」昔と変わらず深く濃厚なキスから始まり、服を脱がされ体中の敏感な処をきつく吸われる。私の肌には無数の赤い花が咲いた。「あっあん…あぁ…」「んっ…ん…」胸を執拗に揉まれ、吸われ、甘く噛まれる。一瞬にして全身に電流が走る。そしてすっかり蕩けきった私の...

Dizzy Love 23話

約十年振りの再会だった。其の瞬間、私は心臓が口から飛び出るんじゃないかってくらいドキドキして苦しかった。私が想像していたとおりあの人は…諒さんは相変わらず素敵だったから──「久し振りだね」「…はい」「…」「…」私は病院で再会した後、こっそり諒さんにもう一度逢って下さいとお願いしていた。てっきり断わられるかと思っていたから『じゃあ家においで』と云われた時は天にも昇る気持ちだった。そして現在、懐かしい平屋の...

Dizzy Love 22話

バサッと置かれた封筒にドキッとした。「…」「隣、いい?」「…はい」休憩室の席は他にも沢山空いているのになんでわざわざ私の隣に座るのだろうと思った。確かレントゲン技師の人…だった。(しかもこの封筒って患者さんの検査結果とかが入っているんじゃ)そんな事を考えていると容赦なく話し掛けられた。「狭山さんって彼氏、いるの?」「…」いきなりの質問。(まぁこの手の質問は昔からよくされていたから今更戸惑ったりしないけ...

Dizzy Love 21話

「…」カレンダーに今日もまた×印をつけて行く。あの日から変わることのない習慣。「うっ!」またいつもの頭痛だ。翔子が死んだ日から時折襲われるようになった頭の痛み。検査をしても特に異常が無いという事から精神的なものなのだろうと思うけれど──ハッキリとした原因が解らないものほど厄介な事はない。袋から薬を取り出し適量を手に取る。「ん?」これが最後の薬だった。処方された薬はあっという間になくなる。「──はぁ…」ガ...

Dizzy Love 20話

諒さんが私にかけて来てくれていた愛情に私は気が付かなかった。其れほどまでに私は子どもだった。「其れは仕方がない事よ。だって典子ちゃんはまだ中学生なんだから解らなくて当たり前よ」「…」麗子さんは優しく私を宥めてくれる。「でも、そうか…諒はもう一度見つけていたのね。自分を…自分だけを好きになってくれる女の子を」「え…」「…」麗子さんはとても優しげな視線を私に向けてくれた。「諒は翔子が死んでからより一層他人...