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2018.02.05 (Mon)

Darling Sweeper 7話



社長に「少し話がしたいのだけれど」と云われ、私は役員用の部屋に通された。


「いやぁ…しかし懐かしいなぁー何年振りだろう…?かれこれ10年…11年くらいかな?」
「そうですね、母が亡くなったのが私が11の時ですから…11年になります」
「…麻美(あさみ)さんが亡くなってからレンタル契約も更新されなかったからすっかり疎遠になってしまっていたね。しかしまさか恵麻ちゃんがうちの会社に入社していたなんて…人事部から提出された名簿を見てビックリしていたんだよ」
「…はぁ」


入社動機がいささか不純だった私は其の話を深められると困るなと思い、必死に会話の転換を図った。


「あの、そういえば社長は母の葬儀に来てくださったそうですね」
「…あぁ」
「すみません、其の時にご挨拶が出来なくて…しかも其の後も…色々ゴタゴタしていて…」
「あぁ、気に病まなくていいんだよ。解っているから」
「え」
「…お父さんとの間で…色々あった事と思う」
「!」


(どうしてこの人は色々知っているの?)


そもそも一顧客に過ぎない人のお葬式に来るというのもなんだか変だと思っていた。


「今、恵麻ちゃんが考えている事を話そうかな?」
「え」
「わたしとお母さんの事。其れと…お父さんの事」
「…あの」
「実は恵麻ちゃんのお母さん、麻美さんはね、結婚するまでうちの会社に勤めていたんだよ」
「えっ、そうなんですか?!」
「うん、まだこの会社の前身の【奈木野清掃社】って小さい会社だった頃にね」
「……」
「そしてわたしは…麻美さんの事が好きだったんだ」
「え!」
「あぁ、わたしが勝手に好きだっただけで気持ちを伝えたりはしなかった。当時麻美さんには付き合っていた人がいたしね」
「其れって」
「勿論、恵麻ちゃんのお父さんだよ」
「…」
「麻美さんを通じて恵麻ちゃんのお父さんとも親交が出来てね。少しはお互いの事情っていうのを解る様な仲になっていったんだ。ただ、麻美さんが亡くなってからはお父さんとも音信不通みたいな感じになってしまったけれど」
「…そう、だったんですか」
「──お父さんの早すぎる再婚には心を痛めたね」
「!」
「お父さんからね、葉書をもらったんだよ、麻美さんが亡くなってから最初で最後の葉書を」
「……」
「だから今の恵麻ちゃんとお父さんの関係が上手くいっていないっていうのもなんとなく知っているんだ」
「…そう、だったんですね」


素敵な人だと思っていたクリーンスタッフさんが、実は母の事が好きだったなんて──


そして父とも親交があった人。


うちの事情を粗方知っているのだと思ったら驚き過ぎて言葉が上手く出てこなかった。


「でも…どうして奈木野さ…社長はあの当時、クリーンスタッフだったんですか?社長なのにどうして」
「あぁ、あの当時わたしはまだ社長じゃなかったんだよ。此処はね一応世襲制にはなっているけれど、社長職に就く前までは一社員として他の社員と同等に仕事をする方針だったんだよ。下の仕事が解らない人間は上に立つべきじゃないって先代の教えでね」
「あぁ、そうだったんですね」
「うん…まぁ、其のお陰で順調に業績も伸びて会社も大きくなったんだけどね」
「…」


やっぱりこの会社は素敵な会社だと思った。


勤められて幸せなのだと──



「おっと、そろそろタイムアップかな?」


社長は腕時計を見ながら呟いた。


「あ、すみません、長々と…」
「いや、わたしが話したかったんだ──恵麻ちゃん」
「はい」
「色々大変だとは思うけれど、この会社に入社した以上は頑張ってもらいたい」
「…え」
「君はあの麻美さんの娘さんなんだ。やれば出来る子だよ」
「!」
「何度失敗したっていい。10失敗しても1得られれば失敗した9は決して無駄な事ではないのだから」
「…社長」
「また機会があったら話をしましょう」
「はい」


席を立った瞬間にドアがノックされ、社長を呼びに来た秘書さんが顔を覗かせた。


私は深く頭を下げ役員室を後にした。



(多分社長は私が何も出来ない子なんだって知っているんだろうな…)


だからこそ励ましの言葉をくれたのだ。



──母と縁のある会社に偶然にも就職した



なんだか其の事が運命じみたものとして感じられてしまって、益々私はこの会社に勤めたいと思ってしまった。


(其のためには研修最終日の試験に受からないと!)


私は拳を握り締めて改めて頑張る事を決意したのだった。

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