悪魔でSweet 3話

「はぁはぁ…」シンと静まり返った廊下を息も絶え絶えになんとか駆けていた。(キ、キツい)普段の運動不足のツケが此処に来て一気に返されている様な気がする。命の次くらいに大切な手帖を探しに会社に戻って来た私。(確かあの時咄嗟にゴミ箱に入れた気が)昼間の事を必死に思い出しながら帰り道を引き返して会社へと戻って来た。(だ…大丈夫…)ゴミ箱のゴミは朝の清掃時、掃除のおばさんが回収するので今なら手付かずの状態だ。...

悪魔でSweet 2話

私は10歳の時の初恋をずっと引きずっているこじらせ女子──だった。(女子ではないか…もう25だし)ふと自虐的になってしまう。 だけど15年経っても彼への溢れる気持ちは留まる事を知らず…(はっ、そういえば今日は…!)朝見かけた光景を反芻しながら思わず手帖を手に取る。「三輪さん」「!」急に声を掛けられドキッとする。そして手にしていた手帖を咄嗟に直ぐ下にあるゴミ箱に突っ込んだ。「あの、今いいですか」「い、いい...

悪魔でSweet 1話

ずっとずっと思って来た。夢は願えば叶うんだって事を。叶えたい夢があるから頑張れる。絶対に叶えたいから今まで頑張って来られたのだ。例え其の代わりに失うものが多くあったとしても…私は決して後悔などしないだろうと思った。──そして其の頑張りは多くの物と引き換えに私にひとつの結果を実らせたのだったなのに「初めまして、竹井由治です」「は…ぁ」(たけいよしはる…?誰だっけ)インフルエンザで一週間会社を休んでいた私...

Bitter&Sweet(番外編2)

11月22日の晩ご飯の後、澄子さんがにこにこしながら私と源治さんがいるリビングにやって来た。「どうしたんですか、澄子さん」「はい、今日はあたくしから旦那様と奥様に此方を」そう云いながら差し出されたものは細長い筒──だった。「? なんですか、開けてもいいんですか」「はい、どうぞご覧になってください」私は澄子さんから手渡された筒をポンッと開け、中から丸まった少し厚みのある紙を取り出した。クルクル巻かれてた紙...

Bitter&Sweet(番外編1)

約二年ぶりに会った彼女は人妻になっていた──『初めまして、南春登です』『あ…あの…初めまして』明らかに動揺ぶりが窺える彼女の態度に様々な気持ちが湧いて出て来た。伊志嶺 由梨子──旧姓 竹井 由梨子。大学時代に合コンで知り合った彼女。女には興味のなかった僕だったけれど、彼女があの竹井道長の娘と知って俄然興味が湧いた。竹井道長は建築士として心に留めていたひとりでもあったから、僕にとっては娘の視点からの彼の話が...

Bitter&Sweet 60話(終)

季節は巡り巡って、三人暮らしだった我が家がいつの間にか倍の人数に増えていたある日の事。「本日はお招きくださってありがとうございます」「いえいえ、竹井様も遠方遥々、ご苦労様でした」「いやぁ、やりがいのある仕事のために彼方此方行けるのは愉しいものです」「旦那様の会社の業績がようございますのは竹井様のお蔭かも知れませんねぇ」「…えーっと、澄子さんは未だに伊志嶺くんの事を『旦那様』と?」「当たり前でござい...

Bitter&Sweet 59話

昂った気持ちが鎮まり、源治さんの腕枕でうつらうつらしかかった頃、私は呟くように云った。「私…式はいいです…」「は?」源治さんの驚いたかの様な声色で少し意識がハッキリした。「私、ずっと考えていたんですけれど…なんだか結婚式自体にあまり関心が湧かないんです」「…」「確かに式を挙げるのは大切な事かも知れませんけれど…其れよりも私は形にして残したい気持ちが大きくて」「形に残す?」「写真です」「…」そっと体を横に...

Bitter&Sweet 58話

「ふっ…んっ…あっ、あ」「はぁ…由梨子」術後一ヶ月を過ぎる頃には私はまた源治さんに抱かれる様になっていた。お医者さん曰く、術後二週間程でセックスを再開してもいいとの事だったけれど、源治さんが私の体を労わり過ぎて中々抱いてくれようとはしなかった。「源治さん、よく我慢出来ますね」「…」術後三週間を過ぎる頃には私の方が我慢出来なくなって、恥ずかしながら私の方から強請った形でセックスは再開された。其れでも中々...

Bitter&Sweet 57話

ほんの1時間半ほどのお喋りだったけれど、とても愉しいひと時を過ごせた。私は迎えに来てくれた源治さんの車でお店を後にした。「其れはなんだ」私の手にある箱を見て源治さんは尋ねた。「あ、これみちえさんの手作りケーキです。源治さんと食べてねってお土産にくださったんです」「…ケーキ」「あれ?源治さんってケーキ…嫌いでしたっけ?」「甘いものは嫌いではないが…クリーム系の粘っこいのはどうも」「粘っこいって…納豆じゃ...

Bitter&Sweet 56話

「私…本当に妊娠したなんて全然気が付かなかったんです」「生理が止まったでしょ?おかしいなって思わなかった?」「其れが…たまに出血があって…いつもより量は少ないなと思っていましたけど、其れを生理だとばかり思っていて…」「不正出血ね。まぁ若いと判断はつきにくいでしょうけど」「…あれは赤ちゃんからのSOSだったのかなって今になって思ったりしてしまうんです」「由梨子さん」私たちはお茶を飲みながら今回の件を交えた話...

Bitter&Sweet 55話

術後の経過もよく、私は予定通り一週間で退院する事が出来た。「由梨子、大丈夫か?」「はい、何処も痛くありません」病院に迎えに来てくれた源治さんの車で病院を後にした。「しかし…何も退院した当日に行く事はなかろう」「でも外に出たついでですから。多分一度屋敷に戻るとしばらく出歩きたくなくなると思うので…」「…そうか」私は屋敷に戻る前に寄って欲しい処があると源治さんにお願いしていた。其の場所とは「まさかこんな...

Bitter&Sweet 54話

「澄子さん…私…妊娠が怖いんです」「…」私は思い切って澄子さんに告白した。「勿論…源治さんの子どもは欲しいです。でも…また失う事になったらと思うと怖くて…悲しくて…」「…」「気持ちが…暗く沈んで行きそうなんです」「…」私の吐き出す言葉を澄子さんは黙って訊いていた。「…でも伊志嶺の跡継ぎは…産まないといけないんですよね」「──実は旦那様には兄君がいました」「……え」いきなり澄子さんが話し出した。──というか其の内容に...