2017.02.28 (Tue)

早世の花嫁 8話



秀司さんが作ってくれたお弁当をマジマジと見つめていると

「どうしたの?さっちゃん」
「あ…いえ」
「あっ、もしかして厭だった?真っ黒過ぎて」
「違います。あの…私が作るお弁当と違い過ぎていて、もしかして秀司さんはこういう感じのガッツリ系のお弁当の方がいいのかなって」
「あぁ、そんな事ないよ。単に面倒臭がりなだけだよ」
「?」
「自分で作る時は適当っていうか…とりあえず米が食べられればいいって感じだから、一面にご飯を敷き詰めて海苔とか鰹節とか乗っけるだけで充分だと思っちゃうんだ」
「…」
「だけど僕、本当はさっちゃんが作ってくれる様な可愛い感じの弁当が大好きなんだ」
「…」
「おにぎりにするのって手間がかかるし、何種類もおかずがあるのって大変だろうなっていつも思いながら、でも美味しいし嬉しいから昼休みが愉しみなんだよね、いつも」
「そう…ですか」
「うん」

(なんだろう…)

結婚してから作って来たお弁当に対して、こんな感想を訊けたのが嬉しいなと思ってしまった。

いつもお弁当を受け取る時秀司さんは「ありがとう」と云い、そして帰宅して空になったお弁当箱を差し出す時は「美味しかったよ」と云ってくれていたけれど…

『ありがとう』と『美味しかったよ』以外の言葉。

秀司さんが思っていた事をちゃんとした言葉で私に伝えてくれた事が嬉しいなと思ったのだった。


「さて、僕は軽く朝食を摂るけどさっちゃんはどうする?まだ時間的には早いけど」
「私も一緒にいただきます」
「そう?じゃあ一緒に食べようか」
「はい」


もっと

もっと


何故か秀司さんともっと話しがしたいと思った私だった。


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2017.02.27 (Mon)

早世の花嫁 7話



お医者さんの朝は早い。

「あれ、さっちゃん?」
「…秀司さん、何しているんですか」

朝5時。

いつも通りの時間に起床して朝食と秀司さんのお弁当を作ろうとキッチンに行くと、其処にはエプロン姿の秀司さんが菜箸を握っていた。

「えーっと…見ての通りご飯を作っているんだけど」
「どうして?いつも私が作っているのに」
「今日は少し早目に出なくちゃいけなくてね」
「じゃあそう云ってください。其れに合わせて私、起きますから」
「でも…いつも早く起きてくれるのに其れよりも早くだなんて」
「秀司さん」
「えっ」

私は秀司さんに向かって少しだけ怖い顔をした。

「私、早起きが辛いだなんて思った事、ありません」
「…」
「叔母と住んでいた時から不規則な生活に合わせる事はして来ましたから。其れに夫婦ですよ?私たち」
「…」
「ちゃんと云いたい事の云える夫婦になりましょう」
「…さっちゃん」

其の時私に向けた少し寂しげな秀司さんの視線の意味を私はよく解らなかった。

だけど後々になって解るのだ。

私が云っている事と求めている事、やっている事には矛盾があるのだという事を───


「秀司さん」
「うん、解った。これからはちゃんと云うね」
「はい」

憂いた顔は直ぐに消え、秀司さんは私に向かって柔らかな笑顔を向けてくれた。

「とりあえず今日は僕の作った朝食を食べてくれる?あ、弁当もさっちゃんの分があるんだ」
「私の…?あ、ありがとうございます」
「味の保証はしないけどね」
「大丈夫です。私、好き嫌いないので」
「ははっ、そっか」

(お弁当…)

目の前に差し出された無機質なアルミの弁当箱には、一面大きな海苔が乗っかっていた。

(のり弁っていうのかな、これって)

私自身はあまり作らないタイプのお弁当。

いつも私が秀司さんに作るのは俵型のおにぎりに玉子焼きやウインナー、前日に作り置きしていた惣菜なんかをちょこちょこと詰めていた、いわゆる【可愛い】感じのお弁当だ。

(もしかして秀司さん、こういうご飯がドンッとあるお弁当の方が好きなのかな)


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2017.02.26 (Sun)

早世の花嫁 6話



「僕は知っていた。さっちゃんが僕の事、好きでもなんでもないって事を」
「…」
「僕への気持ちがなくても何かのメリットのために結婚するんだって気が付いていたのに…」
「…」
「其れでもいいと…思ってしまったんだ」
「秀司さん…」

突然の告白に驚き、そして其の言葉に私の気持ちはフッと軽くなったのが解った。

「本当だったらさっちゃんみたいに若くて可愛い女の子をお嫁にもらう事なんて出来ない僕だったのに…さっちゃんに好きという気持ちがないにも関わらず僕と結婚してくれたというだけで僕は充分幸せなんだ」
「…」
「だからね、僕はさっちゃんに何も求めないよ。夫婦だからとか、妻だからとか、そういった気持ちでさっちゃんに酷い事をしたくないんだ」
「…」

(私は……仏さまと結婚したのだろうか)

何故かそんな事を思ってしまった。


「そういう訳だから。さっちゃんは何の気兼ねもなく此処にいてくれるだけでいいんだからね」
「…ありがとうございます、秀司さん」
「お礼は云わなくていいから」
「でも私、セックス以外の事はちゃんと奥さんらしい事しますから」
「なっ!」

私の言葉を受け、一気に真っ赤になった秀司さん。

そんな彼を見ていると、やっぱり湧き上がるのは

(…本当面白いなぁ)

という気持ちだった。


──そんな訳で私と秀司さんは一風変わった夫婦生活を送る事になった

体の関係のない夫婦生活。

忙しい夫を支える妻としての役目だけは完璧にこなそうと私は決意した。


だけどそんな日々の中で、私は私自身の様々な変化をじわじわと感じる事になるのだった。


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2017.02.25 (Sat)

早世の花嫁 5話



18歳の私は33歳の男性と結婚して夫婦になった。


「さっちゃんは其れでいいの?」
「え」
「本当に僕と…僕を夫として選んでよかったの?」
「……」

成熟した大人の彼には何もかも見透かされているような気がした。


──私が本当の愛を知らないままに彼を選んで結婚した事を


「僕は…さっちゃんの事が好きだから」
「…」
「ちゃんと好きだから、だから結婚した。でもさっちゃんは…僕に対して僕と同じ気持ちではない、よね」
「…はい」
「……」

彼は真摯に私と向き合おうとしている。

其れが解ったから私も素直になろうと、ならないといけないと思った。

「本当は結婚する前にちゃんと云うべきだった事かも知れません」
「…」
「私は条件で秀司さんと結婚するのだと」
「…」
「でも私は……解らなかったから」
「え」
「人を愛するという事が。昔から恋愛に対して一歩引いてしまっている自分がいて…其れは自分が置かれている境遇とか運命とか…そういった負の事ばかりに気が行っていて、人を愛するという事が後手になってしまっている処があって」
「…」
「こんな私だから一生結婚しないものだと思っていました。でも叔母から秀司さんとの話をもらって諦めていたはずの結婚が周囲に認められるならしてもいいんだって…」
「…」
「恋愛感情がなくてもしていい結婚だったから…」
「…さっちゃん」
「私、秀司さんに失礼ですよね…こんな気持ちで結婚してしまって」
「其れは──僕も悪い」
「え」

話せば話すほど申し訳ない気持ちが沸々と湧いて来る。

神前で誓った言葉は嘘だったという罪悪感が私の心の中を暗くして行く。


そんな中に差し込んだか細い一筋の光。


其れは彼の言葉だった。


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2017.02.24 (Fri)

早世の花嫁 4話



「はぁ~今日は疲れたよね。お風呂に入ってサッサと寝ようか」
「はい」
「じゃあさっちゃん、先に入っておいで」
「…」
「? どうしたの、僕の顔に何かついてる?」
「一緒に入らないのですか?」
「?!」
「夫婦ってお風呂に一緒に入るものじゃ」
「な、なななない!ないないないから!な、何、其の偏った夫婦論」
「違うんですか。じゃあ一緒に寝るのは」
「寝ない!さ、さっちゃんにはちゃんとさっちゃんの部屋があるから」
「…」
「…あのね、さっちゃん」
「はい」
「僕たちは一応夫婦、という形にはなったけれど、其の、僕はさっちゃんを…そ、そういう対象では見てはいけなくて…」
「そういう対象?」
「其の…夫婦だから当然あっていい行為、というか…其の、営みというか…」
「セックスの事ですか」
「!!」
「秀司さん、変な気遣いは要りません。私、ちゃんと妻としての役目は果たす覚悟で嫁ぎました」
「な…っ」
「だからいいんです。私を世間一般的な【妻】として扱っても」
「…」


そう。

私には結婚するまでに其れなりに色んな葛藤があった。

勿論叔母の云う事に逆らったり拒否したり、本気で厭だったら拒めた結婚だった。

だけど秀司さんとお見合いをして、其れなりの期間秀司さんを観察して其のひととなりを徐々に知っていった。


小児科のお医者さんである秀司さんは子ども好きで優しい性格。

ちいさな子どもを溺愛していて、時々其の過度な愛情が周りには歪んで見え【幼女好き】【ショタ好き】【ロリコン】と評価される事となり、性格も見てくれもいいのにモテない。

(医者、子ども好き)

私には其の条件だけで充分だった。

早死に家系の私がいつどんな風に体の不調を訴えるのか解らない。

其の時になって夫の職業が医師というのは心強い。

そして子ども好きというのも、万が一子どもを残して私が死ぬ事があっても残された子どもを大切にしてくれるだろうという気持ちがあった。


──例え私と秀司さんの間に本当の【愛】がなくても…


私には過ぎた結婚だと思ったから決めたのだ。


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