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2017.05.01 (Mon)

わがままな芳香 1話



──私は厄介な体質の持ち主だ



「芳香、おはよう」
「おはよ……ふぁぁ~」
「随分眠そうね──昨夜はさぞかしお愉しみだったんでしょう?」
「あ~~其の話はしないでぇぇ~」
「なによ、訊かせなさいよ。一番の有望株お持ち帰りしたんだから」
「…まぁ…一応いただきました、けど」
「やだぁ、やっぱりやる事早過ぎだわ!で?付き合うの?」
「付き合わないわよ!あんな男」
「あら…もしかして下手糞だったの?」
「其れはまぁまぁだったけどね、でもね…でもねぇぇぇぇ~~」
「…もしかして…また、アレ?」
「そう!シャワー浴びた途端!くぅぅぅ~香水で騙されていただけだったわっ」
「はぁ…本当に厄介ね、あんたの其の体質」
「そんなの私が一番よく解っているわよ──ふん!」


其処で丁度開店時間を知らせるチャイムが鳴った。


「さてと、今日も一日頑張りますか」
「私は今日頑張れないかも~~だって終電ギリギリで逃げ出して帰って来たからさぁ…3時間しか寝てないのよ」
「そんなの関係ないから。ほら、仕事仕事!」
「はぁぁ~」


老舗デパートの化粧品売り場で働く私、沖野 芳香(おきの よしか)26歳。

同じ売り場担当の2つ先輩の田中 春菜(たなか はるな)とは友だち兼合コン仲間な間柄。

春菜は先輩だけれどとても気さくな性格をしていて後輩である私のタメ口にも寛容だった。



「すみません、このリップの新色って在庫無いですか?」
「あぁ、申し訳ございません。此方人気商品でして只今追加発注をかけております。来週の月曜日には店頭に並ぶ予定になっております」
「そうですか…解りました」

いくら眠くても仕事は仕事。

(やる時はやらなきゃいけないのよねぇ…)


──其の時


「ぅっ…!」

いきなり強烈な匂いが私を襲った。


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2017.05.02 (Tue)

わがままな芳香 2話



(な、何…この悪臭はっ!)

鼻を抑えながら辺りを見回すと、店頭の化粧品を見ている中年女性の傍らにいる男性から発せられているものだと解った。

(こ…これは酷いっ…!体臭が公害だわっ)

久し振りに遭遇した悪臭に私はよろけながら春菜に耳打ちした。

『す…すみません…ちょっとつきあたりに…』
『…解った』

私はなるべく自然な流れで売り場から離れて行った。

ちなみに【つきあたり】とはデパート業界用語で【トイレ】の事だ。





「はぁ…はぁ…はぁ…」

個室に入って何度も深呼吸する。

トイレでする事ではないと思うけれど、其れでもあの匂いよりは清掃されているトイレの匂い方が私にとってはマシな匂いなのだった。


(はぁ…死ぬかと思った)


──私は厄介な体質の持ち主だった


其れは人の体臭に敏感、という事。

特に男性の体臭はとても気になってしまって其の匂いによって好意の有無が大きく左右されるほどだ。

香水で体臭を誤魔化され、其の気になってベッドインしても其の途中か、事後のシャワーで幻滅する事が多々あった。

(はぁ…なんでこんな変な体質なんだろう)

こんな変な体質のお蔭で男関係には今まで苦労して来た。

この歳になっても見かけや性格、そして私が好む匂いなど全ての条件に納得が出来る男とは逢った事がなかった。


(…いや…昔、いたなぁ…ひとりだけ)

何故か個室トイレでぼんやりと昔の事を思い出してしまった私だった。


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2017.05.03 (Wed)

わがままな芳香 3話



あれはかれこれ三年ほど前の事──


入社して一年が経った頃のある夜、私はひとりの男と知り合った。

其の夜、知り合いのお店に飲みに行く途中の繁華街の路地裏で男が項垂れて座り込んでいるのを見つけた。

私は一度其の男の横を素通りした。

けれど不意に香った匂いに胸がドキンと高鳴った。

其れは今までに出逢った事のないまさに私の理想とする匂いだった。

慌てて男の元に戻った私は恐る恐る男に話し掛けた。

すると男がのっそりと顔を上げた。

男の顔を見て、益々私の胸は高鳴った。

其の男は香りといい、顔といい、まさに私の好みにど真ん中だったのだ。

声を掛けた私をジッと見つめた男はたったひと言だけ『…寒い』と云った。

よく見れば男の姿は薄手のシャツ1枚を着ているだけだった。

春先とはいえまだ朝晩は寒い。

どうしてそんな状況になったのかは解らなかったけれど、私は彼に対して積極的になった。

そう、つまりは逆ナンしたのだ。

私がホテルに誘うと男は黙ってついて来た。

そして私は男を自身の素肌と熱く燃える様な行為で温めた。


やっと理想の男を見つけて、体の相性もいいという事を確認した私が次に取る行動は『私と付き合って』という告白だったのだけれど──



(はぁぁぁぁぁ~ダメだ、今思い出しても恥ずかしい!)

盛大にため息をついて私はやっと個室トイレから出た。

過去に犯した恥ずかしい想い出にもどかしさを感じながら売り場に戻った私の視界に入った彼を見てドキッとした。

「あ、戻って来ました」

彼と話していた春菜が私を見つけて云った。

其の言葉を受けて彼は私を見つめた。

「あぁ、沖野さん、おはようございます」
「…駿河さん」

私は少しだけ気持ちを引き締め彼に向き合った。

「よかった逢えて。今から営業に向かう処だったんだけど一目顔を見たいなと思ってしまって」
「そうなんですか?嬉しいです」

ニッコリと微笑むと駿河さんは少しだけ頬を赤らめた。

「あの…じゃあ行って来ます」
「はい、頑張ってくださいね」

私がガッツポーズを取るとはにかんだ笑顔を見せて彼は颯爽と駆け出して行った。


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2017.05.04 (Thu)

わがままな芳香 4話



「……はぁ~~疲れたぁ~」
「そりゃそんな大きな猫を被っていたら疲れるでしょうね」
「…」

全くの嘘ではないけれど改めて云われると絶句してしまう。

「其れで?どうするの?」
「どうするって…何が」
「駿河さん。あれはかなり本気だよ、芳香に」
「…だよねぇ」
「もういいじゃん、付き合っちゃいなよ」
「簡単に云うけどさ…私が駿河さんに釣り合う様な女だと思う?」
「まぁ…見てくれはいいからつり合いは取れるとは思うけど…性格がねぇ~」
「だよね」

またはぁ~とため息が出た。

今日何度目のため息だろう。


先程の彼、駿河 昌成(するが まさなり)さんは営業一課の課長という肩書だけれど、実はこのデパートの創業者一族の一員。

つまり現社長のふたりいる息子の内のひとりだった。

「まぁ、跡取りは長男の晃昌(あきまさ)さんなんだろうけどさ、いいじゃない次男!将来有望で性格良くて見た目も良くてそして何より好かれている」
「…そう、なんだけどね」

春菜が云う様に駿河さんは付き合うにも結婚するにも条件がよ過ぎる男だった。

そんな完璧な男が何故私なんかを気に入ったのかはよく解らない。

「……」


ただ…



ただ…



(弾みで一回セックスしただけじゃない~~!!)


海外研修から戻って来た駿河さんを歓迎する会が数週間前にあった。

知り合いの伝手で参加させてもらい偶然にも話をする機会を得た。

いつもの横柄な態度ではなくしおらしく余所行きな態度で接した私を駿河さんは何故か気に入ってしまって、度々食事に誘ってくれる様になった。

其の内の一回、酔った弾みでホテルになだれ込んで致してしまってから駿河さんから真剣交際を申し込まれてしまった。

其の時はとっさに私は駿河さんには相応しくないとか、今は仕事の事で頭がいっぱいとか、取って付けた様な云い訳をして返事は保留にしてもらったけれど…


「だけど何をそんなに躊躇うかね。駿河さんはあんたの匂いセンサーもクリアしているんでしょう?」
「まぁ…悪くはない」
「其れとも本当の性格を晒していないから?いつもとは違う可愛い女を演じている事が問題?」
「まぁ其れもあるかもだけど…でも」
「もう、解らないなぁ。何が不満なんだか」
「…」

(不満──なんてないんだけどさ…)


私自身、何故駿河さんからの告白を保留にしているのかよく解っていなかったのだった。


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2017.05.05 (Fri)

わがままな芳香 5話



終業時間を迎え、私はロッカーに入れていた携帯を確認した。

(あ)

駿河さんからメールが届いていて其処には例によって食事に行かないかという誘い文句が書かれていた。

(食事…かぁ)

昨日の事もあって出来れば気を使う食事はしたくないと思った。

【すみません、明日朝早くに実家に帰るための準備があるので今日は帰ります】

と嘘の返信をした。

すると直ぐに【そうなんだね。事情も知らず誘ってすみませんでした。また今度お誘いします】と馬鹿丁寧な返信が返って来た。

(わぁぁ~すみません、嘘ついて本当すみませんっ!)

本当なら直ぐにでも見限ってくれればいいと思う。

『ふざけんな!俺の誘いを断る女がいるなんて信じられねー!もういい、おまえなんて誘わねーよ!』

ぐらいの勢いで呆れてくれればいいのに。

(本当、いい人なんだよなぁ…駿河さん)


華やかな環境で育って来た人には似つかわない謙虚で優しい人。

多分私が素の性格を曝け出しても受け入れてくれそうな感じがするけれど…

(なんか遠回しにキープしているみたいで…厭な女だな)

嫌われてもいいと思っている反面素顔が曝け出せない。

交際を申し込まれて返事を保留にしている癖に受けるか受けないかを真剣に考えずに相変わらず合コンに行って男を漁っている。


私の中の気持ちが安定していない。

(其れってやっぱり私が……まだ忘れられないからなのかな)

ぼんやりと行く先を眺めながら想い出してしまう。


三年前の…


あの時に出逢ったたった数時間だけの男の事を──


(ふあぁぁぁ!ダメ!考えちゃ絶対にダメッ!)

ブンブンと頭を振って私は雑念を払う。


「あ゛~なんか思いっきり飲みたい気分」

そう思った私は少しよろける足取りで知り合いの店に向かう事にした。


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