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2017.04.21 (Fri)

若様の料理番 1話



女の子だったら絶対にお嫁さんにしようと決めていた。

だって本当に好きな人をお嫁さんに出来なかったのだから、其の人の娘をお嫁さんにするしかないじゃないかと──そう真面目に考えていた。


そして実際に彼女が妊娠をして生まれた子どもが女の子だった奇跡に大喜びした。

これはもう絶対に其の子をお嫁さんにしなさいという神様の思し召しなのだと思った。

17の歳の差なんて成長を重ねると共に何でもない事になるのだから其の辺は大丈夫。

ちいさな時から可愛がって手なずけて僕の事しか考えられない様にしようと画策した。


其れはさながら【源氏物語】の光源氏と若紫の様に…


この大いなる作戦は必ず成功すると思ったのだ。




──思った…はずだった、のに




「わかさまぁー」
「あ、花鈴ちゃん。今帰って来たの?」
「かえってきたのーハイ、これわかさまにおみやげ」
「え、これって」
「ようちえんでかいたの!だいすきなわかさまのにがおえ」
「…花鈴ちゃん」
「わかさま、だーいすき」
「~~~」

あまりにも可愛過ぎて思わずギュッと花鈴を抱きしめた。



「こら、離れないか!」
「わっ」
「きゃぅ」

抱き合っていた僕と花鈴の間を割く様に横から伸びて来た腕によって花鈴は僕から離された。

「ちょっと時人、何するんだよ」
「あぁ?大事な娘を魔の手から護っただけだろうが」
「魔の手って…酷い云い草だな」
「若の考えている事なんてずっとお見通しだからな」
「僕が何を考えているっていうんだよ」
「大方花鈴を手なずけて嫁にするとか何とか考えているのだろう。そうはいかないからな」
「…」
「パパ、かりんね、わかさまのおよめさんになってもいいよぉ」
「! か、花鈴、なんて恐ろしい事を云うんだ!」
「えぇーだってかりん、わかさまだいすきだもん」
「えぇぇぇぇー止めてくれぇぇぇぇー!」

「…花鈴ちゃん」

愛娘の爆弾発言にショックを受け、わぁわぁと何かを喚いている時人は放っておいて、つい花鈴を見つめて考えてしまう。


初恋の人だった来未さんが時人と結婚してからもう六年が経った。

来未さんとの事があってから時人はすっかり僕に対して横柄なものの云い方、態度で接する様になっていた。

そんなふたりの間に生まれた花鈴(かりん)は幼稚園に通う5歳。

僕は花鈴が生まれた時からずっと傍で成長する姿を見て来た。

其れはいずれ花鈴を僕のお嫁さんにしようという目論見からの事であって、其れはもう目の中に入れても痛くないまでに可愛くて仕方がなく、親である来未さんや時人以上に可愛がってしまっていた。


しかし其処に思わぬ落とし穴があったのだ!


「わかさまぁ~かりん、わかさまのおよめさんになってあげるからね」
「…」

そんな嬉しいはずの言葉を訊いても今の僕はちっとも嬉しくなくなってしまっている事に気が付く。

其れはひとえに溺愛し過ぎた花鈴をもう嫁にする【女】というよりも完全に【娘】としか見られなくなっている感情に大きく支配されてしまったからだ!

(もし花鈴を嫁にして…花鈴相手にあんな事やこんな事を…)

可愛い花鈴に対してよからぬ想像をするだけで酷い罪悪感に苛まれる。

(だ、駄目だ!絶対花鈴を嫁になんて…嫁になんて…出来る訳がない!)


──これが僕の敗因だったのだ


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2017.04.22 (Sat)

若様の料理番 2話



「はぁ…」

ついてはいけないと思っていてもついてしまうため息。

「あら、どうなさったんですか?若」
「え…あっ」

食卓のテーブルに頬杖をついていた僕に声を掛けた来未さんについドキッとしてしまう。

「若がため息なんて珍しいですね」
「そう?…そう…かも」

来未さんは僕の前に夕食を配膳して行く。

「若、今日は私が配膳しますね」
「時人は?どうしたの」
「花鈴をお風呂に入れています。なんだか今日は花鈴ととことん話す事があるからと云って若の食事時間と重なってしまうというのに配膳を私に頼んでまで一緒に入っているんですよ」
「…」
「こんな事初めてですよね。若への配膳は絶対私にやらせなかったのに」
「…」

(時人め…相当ビビッているな)

花鈴が僕のお嫁さんになるという言葉を聞いた時人は、其れをどうにか阻止しようと躍起になっているみたいだ。

(子どものいう事なんだからさらりと訊き流せばいいのに)

其れが出来ないとは、なんだか時人の愛娘への溺愛振りは半端ないなと思った。


「あっ」
「! 来未さん」

来未さんがバランスを崩して持っていたトレイからフォークがカランと落ちた。

「す、すみません若!」
「謝らないで、来未さん身重なんだから無理しちゃダメだよ」
「若…」

来未さんは二人目の子どもを身ごもっていた。

もう臨月で随分お腹が大きくなっていた。

「さぁ、座って?」
「でもまだ」
「いいから!僕の命令だよ」
「…」

来未さんを椅子に座らせて残りの配膳を自分でした。


「いただきます」
「はい、召し上がれ」

来未さんが傍にいる食卓で僕は来未さんお手製の夕食を頬張った。

「うん、これ美味しいね。なんの味付けなんだろう」
「其れはオーロラソースです。本格的なものは少し手間がかかるんですけど、マヨネーズとケチャップでも簡単に作れるんですよ」
「へぇ、凄いね。この焼き物に合っている」
「よかった。若が美味しいって云ってくれるのが私にはなによりの褒美です」
「…」

にこにこと清らかな笑顔を僕に向けて語る来未さんは30歳になっても出逢った頃の幼さがある様に思えた。

(…本当に…いいなぁ…)

時人のものになって時人の子どもを産んだ事で完全に諦めた人だ。

だけどどうしても僕の胸の奥底には彼女への想いが燻っている。

来未さんの代わりに娘の花鈴を──と望んだ事も今となっては到底無理な話になっている。


(本当どうしよう)


大学を卒業して本格的に矢羽々の跡取りとしてグループの業務に携わる様になった僕に、両親は早く身を固めて孫の顔を見せてくれとせっついている。

僕は両親が年を取ってから出来たひとり息子だから其れにかかる期待は大きい。


──でも僕は未だに来未さん以外の女性に本当の恋というものをした事がない


20歳を過ぎた頃から数回見合いなどをした事もあったけれど、どの女性も僕の心に響くものがなかった。

勿論矢羽々の総帥の妻となるからにはただ単に好きか嫌いかで決めるものではないというのも重々承知している。

両親は結婚相手に関しては特に何も云ったりしないけれど、多分矢羽々の跡取りとしては仕事関係で有利な相手との結婚が望ましいのだろう。

だけど…

(どうせなら少しでも好きだと思う子と結婚したいじゃないか)

初恋があまりにも強烈な記憶としてあるからこそ、どうしても其れを上書き出来る様な恋愛をしたいと願っている。

恐らく今のままじゃいつまで経っても結婚はおろか両親に孫の顔を見せる事なんて出来ない。


「はぁ~」
「またため息」
「…あ」

来未さんが傍にいるというのに僕は少し意識を飛ばしていた様だ。

「若、私でよかったら話してください」
「…」
「悩んでいる事、私でよければ訊きますから」
「…ありがとう、来未さん」

(本当…来未さんに云える悩みだったらよかったのにな)


そうして僕は何でもないような顔をして再び食事の話に戻り話題を逸らせたのだった。


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2017.04.23 (Sun)

若様の料理番 3話



其の話は突然舞い込んだ。


「えっ、帝王切開?」
「はい…」

ある日の朝、朝食の席に珍しく時人と来未さんが並んで座っていた。

「昨日、検診に行って検査をしたんですけれど、帝王切開での出産がいいんじゃないかと云われまして」
「其れって…赤ちゃんに何か異常でも?」
「あ、違うんです。どうも赤ちゃんの頭の形と私の骨盤の大きさが合っていないみたいで、其処を赤ちゃんがくぐって来れないみたいなんです」
「児頭骨盤不均衡というらしい」

来未さんが解り易く説明してくれる横で時人が難しい症状名を出す。

「勿論普通分娩が出来ないという訳じゃないんですけど、私の場合難産になる確率が高いみたいで、万が一普通分娩に拘っていざ臨んでも途中で産めないと判断されて緊急で切開する事になるなら…最初から帝王切開の方が安心じゃないか…と」
「お腹を切るの?た、大変そうだね」
「えぇ、其れで入院がうんと長くなりそうなんです」
「そうだろうね、お腹、切るんだもん」

ちょっと想像して怖くなってしまった。

「花鈴の時は最初の一週間だけお休みさせてもらって、其の間は色々作り置きしておいた食材や料理を時人さんに手を加えてもらって若にお出しする事が出来ていましたけど…」
「あぁ、そうか…」

そう、其れは重大な事だった。

来未さんがいないと僕の食事は供給されなくなってしまうのだ。

五年前、来未さんが花鈴を出産した時は此処に産婆さんがやって来て自宅出産という形を取っていて、数日間は食事の支度をストップしていたけどあらかじめ用意してくれていたもので事無きを得た。

──だけど今回は

「決められた日に入院して、翌日帝王切開での出産になって其の後は二週間程の入院になります」
「そんなに長く入院になるの?…女の人って…大変だなぁ」

来未さんの話を訊いていると本当に女性って凄いなと思う。

お腹を痛めて子どもを産んで育てて…

(其処までして子どもを産むって事は本当に好きな相手との子じゃないと無理だよね)

来未さんが花鈴を産んだ時にもそんな事を考えた事があった。

だから尚更僕は来未さんを諦められたのだと…

(時人の事が凄く好きだから痛い目に遭っても子どもを産みたいって思うんだよね)


「…若?」
「え…あっ、ごめん。ついボーっとしてしまって」

様々な事を考えていたらつい意識を飛ばしてしまっていた。

「話は此処からだ、若」
「何、時人、そんな怖い顔して」
「これから話す事を若には必ず受け入れてもらいたいんだ」
「…」

少し硬い雰囲気になった時人に身構える。

だけど口を開いたのは来未さんだった。

「あの…私がいない間の若の食事のお世話を他の人に頼みたいなと思っています」
「他の人?」
「はい。これも何かの機会だと思って、若には私以外の人の食事も食べられる様になってもらいたいなと考えているんです」
「えぇ、む、無理だよ、そんなの!僕、来未さんのご飯だから食べられるんであって」
「いいえ、立派に成長なさった若ならもう大丈夫です。きっと私以外の人が作った食事も召し上がれると思います」
「…」
「私が何年若をお世話して来たと思うんですか?若はとっくに何でも誰が作った物でも食べられます」
「…そんな…自信、ないんだけど」
「ですからこれを機会にと。ね?若、承知してください」
「承知しろ、若。今回ばかりは来未の願いを訊いてもらう」
「…時人」

来未さんと時人のふたりから云われるとちょっと考えてしまう。

確かに幼い子どもの時よりは食べ物に関して嫌悪感はなくなった。

矢羽々のたったひとりの跡取りという事で過剰なまでの防衛反応を身につけ、其れによって人の手で作られた食事は毒殺の危険があるという事から一切手を付ける事が出来なかった。

唯一大量生産された菓子だけが口に出来た結果、会社の指針とは似つかわない体型になってしまった幼少期。

そんな僕を救ってくれたのが来未さんだった。

来未さんの作った物なら素直に美味しく食べられた。

僕は来未さんに大きくしてもらった様なもので、大人になった今では毒殺云々の恐怖は無くなっていた。

だから何かきっかけがあれば僕は来未さんの食事以外のものも食べられる様な気がしないでもなかったのだけれど…


「若、如何でしょう。私のお願い、きいてくれませんか?」
「…来未さん」
「若、器の大きい処を見せてみろ。僕は好き嫌いなく何でも食べられますと」
「時人…」


そうして僕は、思いもよらない事から来未さん以外の人を料理番として迎える事になったのだった。


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2017.04.24 (Mon)

若様の料理番 4話



『おい、デブ。今日もまた校長室に行くのか』
『あ…』
『いつもいつも校長室でどんな美味いもの喰ってんだよ』
『…』
『…おまえなぁ、学校にいる時ぐらいはみんなと一緒に給食喰えよ。其れが義務教育ってやつだぞ』
『…』
『おい!なんで何も云わないんだよ!馬鹿にしてるのか?!所詮矢羽々の御曹司さまはおまえら庶民とは違うんだよって心の中で馬鹿にしてるのか!』
『ち、違…』
『おまえみたいなデブは歩くよりも転がって行けよ、ほらっ!』
『!』


ドンッと背中を蹴られた衝撃でフッと目の前が真っ白になった。





「………なっ」

気が付いた時、目に飛び込んで来たのはいつもの見慣れた天井だった。

(……あぁ、夢…か)

ぼんやりと周りを見渡し、しばらくまだ脳裏にこびりついている映像を反芻する。

(なんで小学生の時の夢なんか…)

僕の人生において一番思い出したくない時期、其れが小学生の時だった。

まだ来未さんと出逢う前の小学5年生の時が一番酷い苛めを受けていた時だった。

まともな食事が食べられず、小学校の昼休みは事情を知る校長の元に行き用意されていた菓子を食べていた。

そんな僕を苛める子たちがいた。

自分たちと違う人間を苛めの対象にする事はあるだろうけれど、所詮小学生の低俗な苛めだ。

矢羽々の息がかかる学校の先生たちは僕の苛め対策には瞬時に対応してくれた。

其のお蔭で苛めは沈静化して行ったのだけれど、そんな状況にあってもいつまでも変わらず僕を苛めてくる男子がたったひとりだけいた。

しかし其の子はある日突然僕の前からいなくなってしまった。

(…今思えば酷い事をしたよな)

あの子は確かに僕を苛めていたけれど、思い出されるのはいつも正論を云っていたという事。

みんなと一緒の輪に入れ。

みんなと一緒に給食を食べろ。

みんなと一緒に遊べ。

折角学校に来ているんだからみんなと仲良くしろ。

僕の事情を知らない子が云うには至極真っ当な言葉だ。

だけど其の時の僕にはどの言葉も辛く重く圧し掛かるものばかりで、とうとう当時僕の世話係を務めてくれていた時人の父である御門に泣き言を云ってしまったんだ。

あの子が学校にいるから行きたくない──と。


(多分僕のせいであの子は転校させられたんだろうな)

一時の辛さから逃げるために矢羽々の力を使った事を後悔した。

今思えばもっと上手く立ち回れたんじゃないかと思うけれど、其の時の僕はあまりにも幼稚で無知で…余裕がなかったのだ。

(そういえばあの子…なんて名前だっけ…?)

華奢な色黒の体に短髪の何処からどう見ても健康優良児って感じの子。

彼の周りにはいつも人がくっついていて、彼みたいな子が矢羽々の跡取りだったら父も母もさぞや喜んだんじゃないかと思った事もあった。


──どうしてこの時になってそんな事を思い出したのか…

其の時の僕にはさっぱり解らなかったのだった。







「若、今少しお時間取れますか?」
「うん、大丈夫だよ」

ある休日。

僕は庭園にある東屋で本を読んでいた。

何も予定のない休日は大抵お気に入りの庭を眺めながら好きな本を読んで愉しんだ。

「前にお話した私の代わりに若の食事を作って下さる人がみえたのでご紹介します」
「…あ」

そういえば有耶無耶のうちにそんな話になったなと思い出した。

来未さんが通っていた調理師専門学校の伝手で何人か候補を決め、自ら面接して決めた選りすぐりの人材だと云った。

最終決定は僕との面接で決めるという事で話をもらったのがつい昨日の事だった。

(気が進まないけど来未さんが安心して赤ちゃんを産むためだからな…)

僕はそんな気持ちから来未さん以外の新しい料理番を招き入れる事を決めたのだった。


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2017.04.25 (Tue)

若様の料理番 5話



来未さんが出産のために入院する間、僕の料理番として勧められた其の人物を見てドキッとした。


「若、こちらがご紹介したい田中 泉(たなか いずみ)さんです」
「…」

来未さんに促されて僕の前に一歩前に出た小柄な女性は何となく来未さんと雰囲気が似ていた。

「泉さん、こちらが矢羽々家の若さまです」
「…あ、あの」
「…」
「わ、わた、私……あのっ」

泉さんと呼ばれた女性は何故か俯き加減で言葉を濁していた。

(緊張、しているのかな?)

矢羽々の名前で緊張する人がいる事が珍しくないと知っている僕は、彼女もそういった人たちの様に矢羽々の名前に何かしらの緊張感を持っているのだろうかと思った。

だから僕は

「矢羽々樹生です。田中さんは僕と同い年って訊いていますが出身はどちらですか?」
「!」

彼女の緊張が少しでも解ければいいなという気持ちから気軽にそう話を振ったのだけれど…

「…あれ……?た、田中、さん?」
「~~~」

(僕を見る彼女の顔がみるみる怒りに満ちて来た様に見えるのは……気のせい?)

「あの、田中さ──」
「あ、あんた…覚えていないの?!信じられない!」
「!」

いきなり大きな声で怒鳴られた。

「ちょ、ちょっと…泉さん?何、突然」

僕同様驚いていた来未さんが真っ青になってオロオロしていた。

「あぁ、そう!覚えていないんだ、ぜーんぜん記憶にないって訳ね!そうか、そうですよね!所詮矢羽々のボンボンには同小の人間なんて記憶にないって事ですかっ」
「…おなしょう?」

(其れって…同じ小学校出身って意味、だよね)

彼女の口調からしてどうも彼女と僕は同じ小学校の児童だった、という事らしいけれど…

(──ん?…待って)

目の前で僕に散々厭味を云っている彼女。

其の口調、其の罵声の仕方。

そして数日前に見た懐かしい夢。


「……あれ」

其のふたつの映像が何故か僕の頭の中でシンクロして──


「あれ…も、もしかして…小学校5年生の時…僕を苛めていた…」
「!」

僕がそういった瞬間、彼女から発せられていた罵詈雑言がピタッと止まり、途端にカァと頬を赤らめた。

(嘘!ほ、本当に?!)

彼女の其の様子を見て確信した。

だけど

「え…でも君、いつの間に性転換したの?」
「は、はぁぁぁぁぁぁぁ?!」
「だって君、男の子、だったよね?」
「~~~こ…こっ」
「え」
「こんのぉ、馬鹿野郎ぉぉぉー!!」
「!」

一瞬にして目の前が真っ暗になった。

真っ暗闇でか細く聞こえたのは来未さんの悲鳴だった。


(うわぁ、僕、初めてグーで殴られたよ…)


意識がなくなる寸前、何故か頭に浮かんだのはそんな事だった。







「……ん」

「若、大丈夫ですか?!」

「…」

薄っすら目が覚めて飛び込んで来たのは来未さんの心配そうな顔と、其の後ろで笑いをかみ殺している時人だった。

「…あれ、僕…」
「若、何処か痛い処はありませんか?!」
「…」

そっと触れた左頬には大きな冷却シートが貼りつけられていた。

(あぁ、そっか、僕殴られたんだ…グーで)

当然というべきかどうか、僕をグーで殴った張本人である彼女は其処にはいなかった。


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