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武士カレシ 1話

小さい頃より曲がった事が嫌いだった。曲がっているものは真っ直ぐにしたかったし、間違っているものは正しく直したかった。勿論、自分の性格も重々承知していて、俺自身人の上に立つ器ではないと早々に理解していた。元々兼ね備えていた人の本質を見極める術に長けていた俺は其の能力を最大限に発揮しようと思った。俺が認め、ついて行きたいと思った主(アルジ)がいれば、俺は其の方に終生仕えたいと思っていた。──そんな主を見つ...

武士カレシ 2話

 「見たわよ、雅流」「…」昼休み──いつもの様に社食で手早く昼食を取っていると厄介な人間が話し掛けて来た。「辰巳の奥さん、来ていたわね」「…社長の弁当を届けに来ただけだ」「受付に来る前にあんたに取られちゃったから話が出来なかったわ」「彼女に何の話があるというのだ」「まぁ色々?」「…」受付嬢の兵頭 梓(ヒョウドウ アズサ)は同期入社だったが其の時からやたらと俺に絡んでくる一癖も二癖もある女だった。ただこんな...

武士カレシ 3話

『…ち、力では…敵わないから…』『力も…体の疼きも…逆らえないから…私には…こうするしか』『お、お願いです…わ、私には…好きな人が…心に決めた人がいます。其の人を…裏切りたくないんです』『他の事なら…何でもしますから…か、体だけは…』辰巳さんが妻にと望んでいた女性を査定するために潜入した子会社で逢ったのが杏子さんだった。最初は特に何の感情もなかった。辰巳さんのためだと思えば、彼女の貞操観念を図るための行動に戸惑...

武士カレシ 4話

「ヤァァァァァァ!」「オォォォォォォ」道場内に竹刀のぶつかる音がパンパンと響く。雑念は振り払って、ただ己の思念を剣に込めて振りかざして行く。二段の私が四段の雅流くんに敵うはずはないのだけれど、其れでも気迫で押して行く。グッと踏み込んだ先、いきなり私の視界から雅流くんが消えた。「えっ?!」ダンッという音と共に、床に倒れ込んでいる雅流くんの姿があった。「ま、雅流くん?!」私は慌てて倒れている雅流くんに...

武士カレシ 5話

『来なくていい──あぁ、丁度いい。おまえ全然有給消化していないだろう。ついでに一週間くらい休んどけ』「…は?」『いいか、社長命令だ。一週間出て来るな』「…」なんて横暴な主(アルジ)だ。第一秘書の俺がいなければ仕事なんてままならないだろうに。「…」辰巳さんに電話で事の顛末を話し、病院に寄ってから出社すると伝えると先ほどの応対があった。辰巳さんなりの気遣いのつもりなのかも知れないけれど、俺にはかえって酷な宣...

武士カレシ 6話

御剣家での数日はあっという間に過ぎた。満足に歩けない俺を気遣って、御剣家にいる間七重は甲斐甲斐しく俺の世話をしてくれた。其れは今までに知る事のなかった七重の家庭的な面を知るには充分な時間だった。其れと共に俺は七重に対する気持ちが妹からひとりの女としての思慕に変わって行っているのを肌身に沁みて思い知ったのだった。「あら、久しぶり。もういいの?」「──あぁ」一週間ぶりに出社して最初に声を掛けて来たのは梓...

武士カレシ 7話

ザワザワと人の喧騒が微かに聞こえる居酒屋の個室。定番の座敷で俺は辰巳さんにお酌をしながら胸の中にうず高く積もっている想いを吐露した。「告ってしまえ」「…は」俺の話を訊き終わった辰巳さんは何の躊躇いもなくそう云い放った。「あの、私の話を訊いていましたか?」「訊いていた」「相手は16歳で…高校生で、私とは歳の差が10もあって」「其れの何処が問題だ?」「…」グッと喉仏を上下させながらグラスの中のビールを一気に...

武士カレシ 8話

辰巳さんと別れてから足を運んだのは勝手知ったる場所だった。「…」上着を脱ぎ、ネクタイを外し、腕捲りをしてギュッと竹刀を握った。ブンッ竹刀を振り下ろす度に空気を裂く音がする。ブンッ竹刀を振っている間は頭の中に雑念はなくなり、無となってただがむしゃらに竹刀を振る。昔から俺は何か思い悩んだ時、頭を空っぽにしたい時、そしてブンッ何かを決意した時にこうやってひたすらに竹刀を振るう事があった。「──っ、はぁはぁ...

武士カレシ 9話

今でも夢を見ているようだった。「七ちゃん、おいで」「…」そっと差し出された雅流くんの手を私は取った。「もうじき始まるそうだ」「うん」数日前の夜、道場で雅流くんに告白されてから最初の休日。私は雅流くんと初めてデートした。デート、というものが初めての私はどうしたらいいのか解らなかったけれど、雅流くんが『七ちゃんの観たがっていた映画を観に行こう』と誘ってくれた。10歳年上で、大人の雅流くんがそんなデートで...

武士カレシ 10話(終)

 「七重から俺を求めてくれるのを待っていた」「?!」急にチュッと首筋に柔らかいものが押し当てられた。「綺麗な七重を俺の欲望で穢す事だけは絶対にしたくなかった」「あ…」雅流くんが言葉を紡ぎながら二度、三度と私の首筋をきつく吸った。「ただでさえ俺は10も歳上の大人で…七重が俺と付き合ってくれるというだけでもありがたい事だったのに…俺の欲望で清い七重を穢したくなかったんだ」「…雅流、くん」雅流くんの唇が首...
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