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放浪カレシ 1話

私の彼は放浪者だった。「杏子ちゃーん!」「あ、辰巳さん」【今駅に着いた】──というメールをもらって慌てて家を飛び出してからおよそ20分。力一杯ダッシュして来た私に辰巳さんは駅前で大きく手を振ってくれていた。「辰巳さん!」私は思いっきり辰巳さんの胸の中に飛び込んだ。「わっ、相変わらず元気そうだね、杏子ちゃんは」「元気です!逢いたかった…すごく逢いたかったです!」「…俺も」背の高い辰巳さんの胸の辺りに顔を埋...

放浪カレシ 2話

 田舎にありがちな安っぽいラブホテル。いつからか此処が私と辰巳さんの愛を交わし合う場所となっていた。「あっ、あぁん」「ん…はぁ」時間をかけて全身をくまなく愛撫された後の挿入は、其れは気持ちいいのひと言だった。緩やかな腰の動きで私の中を丁寧に擦ってくれる感じが私を大切にしてくれているように思えて仕方がない。「あっ、あ…辰巳…さん」「杏子ちゃん…杏子ちゃん」私の中がざわついて来たのを辰巳さんは敏感に感...

放浪カレシ 3話

「ねぇ、其れって騙されているんじゃないの?」「え」お昼休憩の時間。専務の百合子さんから箸でビシッと差されながら鋭い指摘を受けた。「確か杏子の彼氏って杏子より」「7歳年上の27歳」「で、名前が」「辰巳(タツミソウタ)颯太さん」「で、仕事が」「……行商?」「其処!其れ、おかしくない?!」「え、なんで?」険しい表情の百合子さんは激しい口調で私に迫った。「確かさぁ…一年前に知り合ったんだって云っていたよね?」「そう、...

放浪カレシ 4話

【今は九州にいます。此方は雨天が続いています】(九州は雨…かぁ)【此方は晴天です。雨に濡れて風邪をひかないように気を付けて下さいね】定期的に来る辰巳さんからのメールに返信をする。遠く離れていても、この瞬間には近くに辰巳さんを感じられて私はポッと胸の奥が温かくなるのだった。(…ん?)勤務を終えて家路につく途中、駅前を通ると男の人が座り込んでいた。俯いていて顔はよく解らないけれど、大きなリュックを背負っ...

放浪カレシ 5話

駅前で偶然逢った男の人を仕事場である工場に案内するために、私は来た道を引き返した。そして「本社から出向になった井向(イムカイマサル)雅流です」「! 本社って…」百合子さんの旦那さんで田之中工業の社長でもある実さんが驚いていた。私は席を外していた百合子さんの代わりにお茶を出しながらふたりの話をなんとなく聞いていた。「はい、とある調査のために暫く此方の工場に席を置かせていただく事になりました」「とある調査…と...

放浪カレシ 6話

  井向さんの『──明日からよろしくお願いしますね、笹倉さん』の言葉通り、私は井向さんからいい意味でも悪い意味でもよろしくされてしまっていた。「笹倉さん、取引先に挨拶に行くので同行してください」「えっ、そういうのは百合子さんが──」「専務には別の社に出向いてもらっています」「…」そういえばいつの間にか事務所の中には誰もいなかった。「あの…でも電話番で事務所には誰かひとり待機していないと…」「其れ...

放浪カレシ 7話

「あ…あっ」「我慢出来ないのでしょう?」井向さんのねちっこい触り方に私の中がジンジンと熱くなって来ているのが解った。其れと同時に潤み切った愛液が、もうほんの少しの刺激で表に出ようとしているのも解って(どうしよう…このままじゃ…)私の中ではもう奥深くに突いてもらいたいという気持ちが湧いた。深く強く、ガンガンと私の中を行き来して欲しいという欲望が競り上がって来ていた。「ぃ…やぁぁぁ!!」「!」私は思い切り...

放浪カレシ 8話

 「は…はぃ」私は恐る恐るインターホンで応対した。『杏子ちゃん?俺、颯太だけど』「えっ!」其れは信じられない事だった。いつも辰巳さんはこの町に来る時は必ずメールをくれたし、待ち合わせも駅前だった。私の家に直接来るだなんて…あの最初に出逢った時以来、一年振りの事だった。私は慌てて鍵を外し、玄関ドアを開けた。刹那──「杏子ちゃん!ごめん、ごめん!!」「?!」いきなり私に抱きついて来た辰巳さんがひたすら...

放浪カレシ 9話

あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか。「…あ」「杏子ちゃん、目が覚めた?」不意に意識が戻り、微睡む視界の先に愛おしい人の姿があった。「ごめんね、杏子ちゃん──俺、無茶苦茶に杏子ちゃんを抱いてしまった」「…ううん…私も…抱かれたかったから」「杏子ちゃん…」体を起こそうとした瞬間、ギュッと辰巳さんに抱きつかれた。「本当にごめんね、杏子ちゃん。腕、痛くない?」「! …なんで…腕の事」「…」そもそもこれはどう...

放浪カレシ 10話(終)

辰巳さんに愛されまくった翌日は体がまともに動かす事が出来ずに、其の日一日寝たきりになっていた。当然会社は休む事になってしまったのだけれど、其の間辰巳さんは此方に居られるギリギリの時間まで私を甲斐甲斐しく世話してくれた。そんな辰巳さんを見ていたら、試されていた──という一時感じた不快感は瞬く間に消え失せてしまって、やっぱり私はどんな事をされても辰巳さんの事が好きで、好きで、大好きで、離れるという選択肢...

武士カレシ 1話

小さい頃より曲がった事が嫌いだった。曲がっているものは真っ直ぐにしたかったし、間違っているものは正しく直したかった。勿論、自分の性格も重々承知していて、俺自身人の上に立つ器ではないと早々に理解していた。元々兼ね備えていた人の本質を見極める術に長けていた俺は其の能力を最大限に発揮しようと思った。俺が認め、ついて行きたいと思った主(アルジ)がいれば、俺は其の方に終生仕えたいと思っていた。──そんな主を見つ...

武士カレシ 2話

 「見たわよ、雅流」「…」昼休み──いつもの様に社食で手早く昼食を取っていると厄介な人間が話し掛けて来た。「辰巳の奥さん、来ていたわね」「…社長の弁当を届けに来ただけだ」「受付に来る前にあんたに取られちゃったから話が出来なかったわ」「彼女に何の話があるというのだ」「まぁ色々?」「…」受付嬢の兵頭 梓(ヒョウドウ アズサ)は同期入社だったが其の時からやたらと俺に絡んでくる一癖も二癖もある女だった。ただこんな...
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