SとMの癒えない関係 1話

初恋の人の事、忘れられますか?フラれた人の事、嫌いになれますか?どちらも出来ない時は…どうしたらいいですか──?「もしかして…小清水、か?」「…え」其の再会は最悪としかいいようがなかった。だってこの世で一番逢いたかった相手と一番逢いたくなかった場所で逢ってしまったのだから。「あれ何々、宗介の知り合い?」「…」「や、やだぁ、全然知り合いじゃないですよー初めまして、マコです」「だよねぇ~堅物の宗介がキャバク...

SとMの癒えない関係 2話

──時は五年前に遡る『加賀谷先生、おはようございます』『おはよう、小清水』『…』去年赴任して来た加賀谷先生は密かに女子生徒に人気が高かった。いつの時代も若くて容姿のいい男性教諭というのはごく一部の女子から見ると憧れの対象になりうる風潮にあって、私も其の風潮に習ったひとりに数えられる。(挨拶ぐらいしか交わせられないけど)真面目だけが取り柄の地味な私は他の女子のように気さくに先生に声は掛けられなかった。...

SとMの癒えない関係 3話

深夜まで営業している店はファミレスぐらいしかなかった。「お待たせしました」店員が注文の品を無機質に置いて行ってからも私と先生の間には沈黙が広がっていた。私がカップを手にしてひと口飲んだ頃に先生は口火を切った。「小清水、あれから…どうしていたんだ」「…」相変わらず低くて静かな声のトーンに心はあの時と同じように胸が高鳴っていた。カップをソーサーに置いてからジッと私を見つめている先生に向かい合った。「高校...

SとMの癒えない関係 4話

「高校を卒業して大学には行かないで就職したんです。だけど…人間関係で長続きしなくて…一年ちょっとで退職してしまって…其れで今はあのお店に」「どうしてあんな店に…もっと他にも働く処はあっただろう」「…」【堅物先生】らしいお説教口調だなと思った。でも其れさえも懐かしくて…(愛おしい)「小清水」「私なんかの事より先生は今、どうなんですか?」「え」「奥さんと…幸せなんですか?」「!」刹那、先生の顔色が変わった。...

SとMの癒えない関係 5話

私が中学を卒業した其の春に先生は結婚した。其れは何となく風の便りでも知っていたから私の初恋は見事に破れ散った。でも、だからといってそんなに簡単に運命の人を忘れられないし、嫌いにもなれなかった。先生に対する恋心は私の胸の奥底にずっと燻り続けていた。勿論先生が云ったように沢山の人と知り合って好意を持ち、年相応の恋というものに身を任せた事もあった。だけど付き合って来た人の中で先生以上に愛せる人は誰ひとり...

SとMの癒えない関係 6話

私が静かに啖呵を切った後、しばらくの時間私と先生の間には沈黙が続いた。そして其の沈黙を破ったのは先生だった。「…簡単に云うなぁ」「え」今までとは違った冷えた声色が私の耳に届いた。「実に簡単に云ってくれる。永遠だの証明するだの」「…」「そんな言葉はもう訊き飽きているんだ。腹が立つくらいにな」「…先生」「小清水、おまえは俺に幻想を重ねているだけだ」「幻想?」「おまえは本当の俺という人間を解っていない。教...

SとMの癒えない関係 7話

『解った。付き合ってやる』『おまえを俺の女にしてやる』そう先生に云われてから一時間後──「先生、此処は…」「此処はって俺の家に決まっている──其れより」「!」先生の家だというマンションの一室で靴を脱いで一歩中に足を踏み入れた瞬間、ドンッと壁に体ごと押し付けられた。「俺の事を『先生』と呼ぶな」「…あ」「俺の事は名前で呼ぶんだ、いいな──舞子」「! は、はい……そぅ…宗介、さん…」「…」初めて名前で呼ばれてカァと...

SとMの癒えない関係 8話

翌朝、私は早起きをして宗介さんのために朝食を作った。起きて来た宗介さんに挨拶をして、食事の支度が出来ている事を伝えると「和食、か」「あ…もしかして朝はパンでしたか?」「いつもパンという訳ではないが、給食のメニューに合わせて朝は調整している」「給食…」そういえば中学校は給食だった。つまりは其の日の給食のメニューで和食にするか洋食にするかと決めていたというのだ。「俺が云い忘れていた。すまない」「いえ、私...

SとMの癒えない関係 9話

其の日のお昼前、宗介さんから貰った名刺を頼りに紹介された設計事務所にやって来た。(このビルの三階か)七階建てのビルは真新しい。私は少し気後れしながらも、ビル内の看板でも其の設計事務所の社名を確認して足を踏み込んだ。コンコン事務所のドアをノックすると『どうぞ』という声が中からした。「失礼します」私は声を掛けながらドアを開けお辞儀した。「どちら様でしょうか」ドアに近い位置に座っていたラフな格好をした若...

SとMの癒えない関係 10話

(どうもこうもないわよね)男だけの職場を紹介され戸惑った私だったけれど、よくよく考えれば宗介さんの後輩の事務所で、たまたま働いているのが男性だけだった──ただ其れだけの事だ。(というか寧ろ其の方が安心っていうか)例え宗介さんの知り合いだとしても親しくしているかも知れない女性の会社を紹介されたりすると少し…ううん、多分凄く其の関係性を疑ってしまいそうになる。(今の処、女性の影が見えないって事に安心して...

SとMの癒えない関係 11話

「そっか…お母さん、病気なんだね。其の看病のために店を辞めたって事かぁ」「…はい」(ごめんなさい、嘘ついて)私は心の中で手を合わせて謝った。本当の事を話して宗介さんに迷惑をかけたくなかった。だから当たり障りのない言葉で真相を隠した。「じゃあしばらくは此処等辺にいるって事だよね?看病の合間によかったら此処に息抜きに来てよ。サービスするから」「あ、ありがとうございます」「うんうん、よろしくね~マコちゃん...

SとMの癒えない関係 12話

私が宗介さんと一緒に暮らし始めてから一週間が過ぎていた。「はい、解りました。其の様に伝えておきます。はい、ありがとうございました」チン「南さん、たいへい堂さんから計画図のOKが出ました」「あ、そう。よかった~あそこのご主人、中々OKくれなかったからやっと肩の荷が下りた」「まだ計画図の段階で何云ってるんですか。とっとと詳細設計に入ってくださいよ」「あぁ~一息つかせてくれよ、 渉は人遣いが荒いなぁ」「...