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2017.01.02 (Mon)

毒舌姫の恋愛事情 1話



どうして今頃気が付いたんだろう



「わぁ~綺麗ね、美沙!」
「ありがとう」
「ねぇねぇ、写真撮らせてー」
「あ、うん」


純白のウェディングドレスに身を包んだ幼馴染みを目の前にして、私は突然気が付いてしまった


「恵梨花(えりか)も、一緒に写真撮ろうよ」
「…ごめん、私、トイレ」
「え?ちょっとぐらい我慢出来ないの?」
「出来ない!漏れちゃう」
「あぁ…そう」


せせら笑う友人たちと少し心配そうな顔をしている美沙を残し、私は脱兎の如く其の場から去った。

そして向かった先はトイレ──ではなく

(あっ…!)

とあるドアのプレートに【澤井家新郎控室】の文字を見つけ立ち止まる。

(…此処に)

私はあがる息を整えながらドアをノックしようとして、ほんの少し躊躇った。

(ドア、ノックして…其れからどうするの?)

勢いのまま飛び出したはいいけれど、此処に来てほんの少しだけ頭が冷静になった。

そんな時間が数秒──

「あれ、恵梨花?」
「!」

掛けられた声にドキンと胸が高鳴った。

「おまえ、こんな処で何やってんの」
「あ…由隆(よしたか)」

其処にいたのはてっきり部屋の中にいるだろうと思っていた人物で…

今、逢いたかった其の人だった。

「なんだよ、顔色悪いな。何かあったか?」
「え?あ、あの…由隆こそこんな処で」
「トイレ行って来たんだよ」
「あ…そう」
「ん?どうした」
「だから…其の…」
「…」

(気が付いて、決意して此処まで来たんじゃなかったの?)


心の中で何度もそう叫んでいる。


でもいざとなったら上手く言葉に出来ない。


「…由隆」
「なんだよぉ、恵梨花らしくないな」
「! …私、らしくない?」
「あぁ、昔から云いたい事はズバズバ云って来たじゃないか。其れこそ怖いもの知らずみたいにさ」
「…」
「幼馴染みの俺と美沙だけだったろ?おまえの悪態についていけたの」
「…」
「俺たち三人の中で恵梨花は親分ポジションだったもんな」
「…」
「気が強くても頼り甲斐のある恵梨花の後をいつも俺と美沙はくっついていって…色々悪さもしたよな」
「…」
「実際愉しかったよな、子どもの頃は」
「…」


何よ


「だけどさ…其の、俺と美沙が結婚するからって三人の関係が変わる訳じゃないしさ、これからも今まで通りつるんで行こうぜ」
「…」


何よ


何よ


何よ!


(なんで其れを今、云うのよ──!)


「あっと、話が逸れちまったな、で?どうした、恵梨花」
「…」
「何か話があったんだよな?」
「んでも」
「? ん」
「何でもないわよ!美沙と…美沙を泣かせるんじゃないわよ!」
「お…おぅ……?」

危うく双眸から水が流れそうになったから慌てて由隆の前から走り去った。


(解っていた…解っていたわよ!)

もつれそうになる足を懸命に動かして私は人波を器用に避けて式場を飛び出し、綺麗な庭園の隅に佇む東屋に辿り着いた。


「はぁ…はぁはぁ」

激しい動悸を鎮めながら吐く息と共に、私が云いたかった言葉は私の中から吐き出され、よく晴れた青空に溶けて消えて行ったのだった。

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2017.01.03 (Tue)

毒舌姫の恋愛事情 2話



私と由隆、そして美沙の三人は物心ついた時からずっと一緒に居た。

お互い幼い頃に新興住宅地に引っ越して来た縁で繋がった私たち。

ひとりっ子の私は突然出来た同い年の由隆と美沙をまるで弟か妹の様に扱った。

だって私は三人の中で一番誕生日が早かったし、体も私が一番大きかった。

そして物怖じしない性格の私は、弱虫の由隆と気弱で優しい性格の美沙の先頭に立ち、常にふたりを引っ張って来たのだった。

そんな関係は中学生になっても続いていて、背丈こそ由隆に抜かれてしまっていた私だったけれど、親分気質の性格は変わらず、相変わらず三人の関係は他の友だち関係よりも強く繋がれていた。


やがてそんな三人の関係は思春期を迎えるとより濃く、深いものへと陥って行った。



「ねぇ、セックスってした事ある?」
「えっ!な、何云ってんの恵梨花っ」
「あんたの其の驚きようからいったら、まだした事ないわね。美沙は?もうした?」
「し、しししししている訳ないじゃない!ま、まだ中学生だよ、わたしたち」
「初心(うぶ)だな、美沙は。もうしている子、いっぱいいるんだよ」
「えっ!じょ、女子ってもうそんな…」
「男子の間ではそういう話しないの?もうヤッてる子いるんじゃない?」
「し、してねぇよ!そんな…そんな」
「ねぇ、したいと思わない?」
「えっ!」
「な、何云ってるの、恵梨ちゃん」

驚く二人を前に私は意気揚々と語った。

「だってこの私がまだ経験していない事を周りがしているだなんて赦せないよ!したい、したいよ!」
「そ、そんなにしたかったらひとりで勝手にすればいいじゃん、恵梨花、モテるんだからさぁ」
「なんで好きでもない男とヤんなきゃいけないのよ」
「へ」
「ねぇ、三人でしてみない?」

「「?!」」

私の言葉に由隆も美沙も其れはもう驚いた顔をした。

「私、セックスはしてみたいけど其処ら辺の男とするのは御免なの。でも由隆と美沙だったらしてもいいなぁ~って」
「ちょ、ちょっと待って、恵梨ちゃん!わ、わたしは女だよ?!其れにわたしは別に」
「え、美沙、したくないの?私と由隆で先に経験しちゃっていいの?」
「え」
「ちょ、ちょっと待て!おまえ…恵梨花!どんどん話を進めて行ってるけどな、お、俺の気持ちとかそういうの、無視してんじゃねぇよっ」
「あれ?由隆は厭なの?」
「!」
「私と美沙相手じゃ不満だって云うの?」
「…そ、そんな」
「ねぇ、どうなの?!あんたたち、経験したくないの?したいの?どっち!」


──結局私のこの有無をも云わせない勢いにふたりは負けた


今思えばなんて馬鹿らしい事をしてしまったんだろうと少しだけ反省する処もあるけれど…

だけど私たちは三人で同じ経験をして、同じスピードで大人になって行ったのだった。


三人でセックスをしたのは後にも先にもあの時、初めての時の一回きりだった。


私はセックスを経験したら劇的に何かが変わる──と思っていたのに、そんな事は何ひとつなかった事を不満に感じ、経験する前までの様な好奇心は全く失せてしまっていた。

だけど由隆と美沙は違っていた。

お互い体を重ねた事により、幼馴染みの友だちという感情から一歩も二歩も進んだ感情を持ち始めてしまい…

そんなふたりは高校生の時から付き合っていたのだと聞かされたのは、ふたりから結婚するという報告を受けた時だった。


ずっと…


ずっと私は知らなかったのだ。


高校の時も大学の時も…


同じ学校に通っていたのに全然気が付かなかった。


そしてお互い社会人になり、別々の道を歩き出した僅か一年目にして打ち明けられた真実だった。

(なんか私って馬鹿じゃない?)

三人仲良く付き合っているんだと思っていたのは私だけだった──という気にしかならない。

私たちの間には【恋愛感情】というのは存在しなくて、ただ気の合う【幼馴染み】という関係だけがあるのだとずっと思って来ていたから…

(でも由隆と美沙は違っていたんだ)

あのふたりは私のいない処では静かに愛を育んでいたのだ。

私が他の男相手に色んな恋愛事情に一喜一憂している間にもずっと…


ずっと…


──そう、私は今日という日を迎えて本当に気が付いてしまった


私ひとりだけが取り残されていたんだという事実に。


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2017.01.04 (Wed)

毒舌姫の恋愛事情 3話



「こんな処で何してるの?」
「!」


結婚式場の庭園の隅にある東屋で物思いに耽っている処に急に声を掛けられた。


「もしかして泣いてるの?」
「何処に目、つけてんのよ。泣いてなんかいないわよ」

声を掛けて来た男には見覚えがあった。

式場に着いて受付を済ませる時、其処にいた男だった。

確か由隆の会社の同僚で友人だと云っていた。


「あのさ、君…恵梨花ちゃん、だよね」
「初対面なのに馴れ馴れしいわね。誰が名前で呼んでいいって云った?」
「わっ、噂通りの毒舌姫だね」
「あぁ?なんですって」
「由隆から色々話訊いていたんだよ。其れに今日、生の君を見た他の連中も姫だ、毒舌だって噂していたよ」
「…」

(由隆の奴、どーでもいい連中に私の事を勝手に吹聴するんじゃないわよ!)

先刻まで考えていた事に対して感じていた不機嫌さに更なる不快感をプラスされて私の苛々は大きくなっていた。


「ねぇ、君、由隆の事が好きだったの?」
「はぁ?」
「悪いけど先刻の由隆とのやり取り訊いちゃったんだよね。オレ、由隆の少し後ろにいたんだけど、君、全然気が付かなかった?」
「…」

(全然気が付かなかったわよ)

あの時は由隆以外の人間なんて視界に入っていなくて、こんな男が後ろにいたかどうかも定かじゃない。

「あれってさ、由隆に告白しようとしていたんじゃないの?」
「…」
「略奪愛の瞬間が見れちゃったりするのかなとか思っていたんだけど…告白、しないの?」
「何を勘違いしているのか知らないけど、私が由隆の事を好きな訳ないじゃない」
「あれ、そうなの?なんだぁー残念」
「…」
「君が由隆連れて此処から逃げ出してくれれば、残された傷心の美沙ちゃんはオレが頂けると思ったのになぁ」
「あんた、美沙の事が好きなの?」
「好きって云うかぁ…弄びたいタイプなんだよね、ああいう大人しいタイプの子って」
「…」
「なんかさ、由隆しか男知らなさそうじゃない?そういうの可哀想だと思わない?結婚しちゃったらもう他の男とセックス出来ないなんてさ、だから──」
「──とんだ下衆野郎だな」
「え」

私は座っていたベンチから立ち上がり、男の手を掴んで今まで座っていたベンチに座らせた。

「美沙に手、出すんじゃないわよ」
「…」
「由隆と美沙は好き合って結婚するんだからあんたみたいな下衆の入り込む余地はないのよ」
「でもさ、そんなのは解らないじゃない?オレが本気で略奪しようと思ったら意外と─── っいっ!」
「はぁ?なんですって?聞こえないわね」
「い…いっ…うっ───!」

私は昔から握力が強かった。

華奢な形(なり)をしている癖に何処からそんな力が湧いて出て来るのだとよく云われていた。


「何?何がどうしたいって?」
「~~~~」

そんな私にいきなり急所を握られていれば言葉なんて発せられないって事ぐらい解る。

解っているけれどあえて何度も何度も訊き返す。

「美沙をどうしたいって云っていた?よく解らなかったからもう一度訊かせてくれない?」
「も…もっ…もう、っ、云いませんっ!」

ほんの少し力を抜くと、其れを感じ取った男は驚くほど素早い動きで私の傍から離れた。

「う゛~う゛~」と涙目になりながら蹲(うずくま)る男に私は止めを刺した。

「おまえ、冗談は顔だけにしておきなよ。今度目についたら其の粗チン、完全に使い物にならないようにしてやるからな」
「! ひ、ひぃぃぃぃー!」

真っ青になった男はよろけながら東屋から遠ざかって行った。


(…ったく、由隆、友だちはちゃんと選べよ)


呆れてものが云えない。

私の把握していない由隆の交友関係があまりにもお瑣末なものだった事にうんざりした。

(本当大丈夫かな、美沙)

美沙を守るのはもう由隆の役目だ。

私の出る幕はもうないのだ。


──其れにしても


私が由隆の事を好きとか…

傍からはそう見えるのだろうか?と少し憂鬱になった。

由隆に恋愛感情なんて一度も持った事がない。

たった一回の初体験のセックスだって、単に気心の知れた男だったから誘ったに過ぎない。

本当に私は…

あのふたりに置いていかれたという気持ちでいっぱいになり、どんどん暗く落ち込む気持ちをせめて由隆にぶちまけたいと思ってあそこに行ったのだ。

(幼馴染みの友情って…ずっと続くのかなぁ)


やがて私の耳にゴーンゴーンという教会の鐘の音が響き、其れを聞いた私は慌てて東屋を後にしたのだった。

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2017.01.05 (Thu)

毒舌姫の恋愛事情 4話



「あれ?恵梨花、二次会行かないの?」

同じテーブルに着いていた友人のひとりに呼び止められた。


「あぁ、うん。夜から用事があってさ」

私は引き出物が入った大きな紙袋を掴んで会場を出ようとした。

すると瞬く間に何人かの友人に囲まれやいのやいの云われ始めた。


「何よぉ、大事な幼馴染みの二次会だよ?ちょっとでも出られないのぉ?」
「美沙には云ってあるからさ。私の分もあんた達で祝って来てよ」
「なんだぁー恵梨花が来ないと今一つ盛り上がらないのにー」
「友だち甲斐のない奴め」
「ごめんごめん、また今度詳しく訊かせてよ──じゃあね」
「あいよー、んじゃあね」
「バイバーイ」
「気をつけてねー」


美沙経由で友だちになった連中は概ねいい奴ばかりだった。

最初は私の見かけと其れにそぐわない口の悪さに随分厭味な事も云われたけれど、其の都度間に美沙が割って入ってくれて、美沙が私の事を彼女たちに懸命に説いてくれたから今ではこうやって気易い友人関係を築けていた。

(美沙って本当いい子)

大人しくて女の子らしくて小さくて可愛い美沙。

私は本当の妹の様に可愛がって来たけれど…

(まさか由隆に取られるとは思わなかったよ、本当)

私から見た由隆は情けないヘタレ野郎という印象でしかない。

勿論気持ちの優しいいい奴だと解っている事前提で私は由隆をいつもからかっていた。

(多分私の知らない由隆を美沙は知って…結婚しようと思ったんだろうな)

本当にそう思うと、益々私だけのけ者になっていた様な気がして落ち込むのだった。








カランカラン

「いらっしゃいませ──ってなんだ、恵梨花かぁ」
「ちょっと、なんだって言い草ないでしょう?客よ、客」

薄暗くて狭い店内には客はおらず、カウンターの中にこの店のオーナー兼店長のバーテンダーがひとりいるだけだった。

「恵梨花は客じゃない。金払いの悪い客は客とは呼ばないから」
「失礼だな、払ってるじゃん。対価に見合うだけの金を」
「なんだとぉ!…って何?今日はいつも以上に機嫌悪いな」
「この格好と持ち物見て解らない?」
「…あぁ、今日だったのか?例の幼馴染みちゃん達の結婚式」
「そう。はぁ、疲れたぁ~ルシアン頂戴」
「あんまり強いの飲まない方がいいんじゃないか?既に程よくアルコール漬けになっているみてぇだけど」
「酔ってないよ、全然──酔わないんだよ…今日は」
「…仕方がないな」

カチンとグラスが擦れた音が耳に心地よく届いた。

「しっかし相変わらず客がいないわね、この店」
「失礼な、先刻まで満杯だったんだ。もう閉店間近だからいないだけ」
「あっそ」

このバーは大学時代からの男友だちのケイスケが開いた店だ。

若い時分から水商売でお金を貯めて、小さいながらも念願の店を構えた私の数少ない頑張り屋の友人だ。


「ほら」

頬杖をついていた私の前に琥珀色の液体を湛えたグラスが置かれた。

「ありがと」

私は其れを一気に飲み干した。

「おい、一気に渇喰らうんじゃねぇよ。もっと味わって飲めよ」
「私がどうやって飲もうが関係ないでしょ、はい、もう一杯」
「ったく、本当おまえは見かけ倒しだな。もちっと、其の美貌をいい方に生かせよ」
「ほっとけ!見てくれで寄って来る男なんかクズ野郎ばっかで要らないんだよ」
「…やれやれ」

ケイスケははぁとため息をつきながらも私の要望通り再びシェーカーをシェークし始めた。


「もう…充分でしょう」
「あ?」
「もう…式に出て…披露宴で友人代表の挨拶をして…笑顔で祝福して…もう充分…でしょう」
「…」
「其れなのになんで二次会まで…そんなん付き合っていられるかってーの!馬っ鹿じゃねぇ?」
「…」
「ねぇ、私、ひとりぼっちになったの」
「…」
「由隆と美沙だけ一緒になって…私ひとりが置いていかれたの」
「…そんな事ないよ」
「いいや、絶対置いていかれたぁ!ちっくしょーなんだっていうんだよ!勝手にふたりだけで幸せになっちゃってよー!ズルい、ズルいよ!」
「…」
「馬鹿!馬鹿ばっかりだ!本当、私の気持ちも知らないで!くっそー」
「恵梨花、おまえ、もう充分酔ってるから」
「あぁ?何、なんだってーケイスケ!」
「はいはい、なんでもありませんよ。お姫様、カクテル出来ましたよ」
「姫なんて呼ぶんじゃねぇ!何処にいるってんだ、お姫さまなんてーえぇ?何処ですかぁー」
「ははっ、相変わらず酔っぱらうと面白いな、恵梨花は」
「煩い!ケイスケ、てめぇちょっとこっちに来いよ!説教してやる」
「はいはい、今日はとことん付き合ってあげますよ、恵梨花さま」
「だからさまじゃねぇってんだよ!馬鹿野郎!!」


──私は酔ってなんかいない


お酒にはめっぽう強いし、酔わせて悪さをしようという下衆野郎の餌食にならないために私はアルコールで身を崩さない様に特訓して来たのだから。



── だから断じて私は酔ってなどいないのだ

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2017.01.06 (Fri)

毒舌姫の恋愛事情 5話



チュンチュン




「…ん」


目を瞑っていても眼球にぼんやり光が当たっている事が解る。

(…朝?)

ぼやけている頭が動き始めて、そして薄っすらと瞼を開ける。

「…」

目に飛び込んで来たのは知っている様な気がする光景。

(煙草くさい…)

鼻につく匂いと、体に巻き付いている筋肉質の腕。

嗅覚と触覚で何となく状況が呑み込めた。


「…ケイスケ」
「…」
「ちょっと…ケイスケ、起きてる?」
「…ううん、寝てる」
「…」
「……?! わぁぁぁぁっ!ちょ、ちょっとぉぉぉぉ」
「このままへし折るわよ」
「じょ、冗談でしょ!お、起きてる、起きています!」
「最初からそう云えってーの」

私は握っていたケイスケの半勃ちのアレを離した。

「ちょ…ほ、本当怖いから!恵梨花ってば」
「煩い!酔って意識のなくなった女を家に連れ込んで強姦した男の云う台詞じゃない」
「ご、強姦って…そんな事してないって!ちゃんと合意だった!恵梨花が『ひとりは厭だぁひとりは厭だぁ』ってオレを離してくれなかったから仕方がなく自宅に連れて来て…」
「来て?」
「おまえ…いきなり服脱ぎ出してオ、オレに…襲い掛かって来たから仕方がなく」
「…」
「な、何、其の疑いの目!恵梨花に嘘をつく様な男が友だちやってないっていうの、おまえが充分知ってるだろう?!」
「…ちゃんとゴムした?」
「も、勿論!其れは必要最低限のマナーであって…ってか、したかどうか解るだろっ」
「じゃあいい」
「はぁ~ビビッたぁ~本当にへし折られるかと思った」

ケイスケはベッドの上ではぁとため息をついているけれど、私の方こそがため息をつきたかった。

(またよく解らないままセックスしてしまった)

自分では酔っていないと思っていた。

だけどどうやら其れは私の勝手な思い込みなのだといい加減自覚して来た。


(ケイスケの店に行って…カウンターの席に着いた処までは覚えているんだけどなぁ)

其れからどういった経緯で此処にいるのかが全く覚えていなかった。


「ケイスケ、シャワー借りるね」
「おう」

少し気怠い体を起こし、私は裸のままバスルームに向かった。




熱いお湯を全身に浴びながら色んな考えが張り巡らされる。

男友だちとこういう事になるのは少なくない。

其の中でも特にケイスケとはかなりの回数で肉体関係を持っていた。

だけど其のどれもが私のよく覚えていない状況下で行われているのが頭の痛い処だった。

(素面の時にケイスケと寝たいとは思わないもんね)


感情のないセックス。

其れはただのスポーツか何かの運動と同じ様な感覚で行われる事だった。

(はぁ…少し自己嫌悪に落ちる)

ザバザバと全身をいい感じで刺激され、シャワーを浴び終える頃には少しだけ頭がスッキリした。



「…」
「余り物で悪いけど、一応朝飯」

バスルームから出た私を待っていたのはお洒落なワンプレートの洋風の朝食だった。

「相変わらず手際いいわね」
「まぁ、一応飲食業に携わってるんでね。これぐらいはまさに朝飯前」
「其のひと言が余計だわ──じゃあ遠慮なく、いただきます」
「おう、召し上がれ」

軽くトーストされたパンには玉子やらハムやらチーズなんかが挟まっていた。

そして味わった事のないドレッシングがかかったサラダがスッキリしていてとても美味しかった。

「ケイスケは本当料理の腕だけはいいわよね」
「何、其の蔑み方」
「別に蔑んでいないわよ。あんたの彼女はいいわねぇ。いつもこんな美味しいもの食べさせてもらって」
「いねぇよ、彼女なんて」
「あぁ、そうなの?あれ、前付き合っている子いるって云ってなかったけ?なんだっけ…バイト先の店で知り合ったホステスあがりの」
「いつの話だよ。そんなの直ぐに別れたってーの。本当恵梨花ってオレの話を真面目に訊いてないよな」
「ごめん、全然興味ないから」
「…」
「そっか、彼女いないのか。じゃあ性欲堪ったらどうしてるの?まさか風──」
「なぁ、恵梨花…オレと付き合わねぇ?」
「──は」

少し前からケイスケの顔が強張って来たなと思っていたけれど、まさかそんな告白をするために緊張していたのか?と思ったらなんだか変な気持ちになってしまった。


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