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2018.01.22 (Mon)

花筏の行方 1話




小さな桜の花びらがユラユラ


やがて水面の流れに乗ってひとつにまとまる


其れは細長く形を成しまるで筏(いかだ)のようになる


其の花筏(はないかだ)が行きつく先は…






「関さん」
「はい」
「先日の学会での領収書を持って来ました」
「ありがとうございます」
「中には少し怪しいものもあるかも知れないんですけど…」
「一度拝見してから後日連絡します」
「すみません、お手数かけます」
「仕事ですからお気になさらずに」

少し申し訳なさそうな顔をして何度も頭を下げ去って行った彼は好感が持てる好青年だった。

「関さん、今のって院の野々宮さんですよね」
「そうね」
「知ってます?彼のお父さんが誰なのか」
「興味ないわね」
「もぉーいつも其れなんですから!なんとあの佐野准教授なんですよー」
「そう」
「其れに去年結婚したお相手が亡くなった野々宮博士の娘さんなんですって!凄くないですか?!色々あって奥さんの方の婿養子って形になったそうですけど」
「へぇ」
「…相変わらず素っ気無いですね。そんなんじゃいつまで経ってもお嫁に行けませんよ」
「行きたくないからいいです」
「本当関さんってクールですね」
「…」

大学の事務職はある意味憧れの職業だと聞いた事がある。

多岐に渡る事務職で今、私が在籍しているのは経理だ。

始終領収書の勘定に明け暮れ、面倒くさい計算も難なくこなせる様になった。

(やっと此処まで来たんだ)

仕事に感情を持ち込む事無く、常に気持ちを張っていなければ務まらない細かい作業。

其れを私は敢えて望んで求めて来たのだ。




「お疲れ様でした」

一日の業務を終え経理課室を出た。

(18時か…今日はひとりだから適当に済ませようかな)

肩をポキポキ鳴らしながら歩いていると、廊下の端で数人の学生がたむろっているのが見えた。

(…)

ああいう光景は此処では日常茶飯事。

そして大抵其の輪の中心にいる人物は──

「もぉー佐野先生ったら上手いんだからー」
「本当!そうやって今まで何人落として来たの?」
「遊びでもいいから付き合ってよ~」

「はいはい、君たちちゃんとお勉強もしてね。いくら媚を売っても評価には影響しないからね」

(…相変わらずお盛んだ事)

黄色い歓声を上げる集団の輪の横をスッと横切り、サッサと構内を後にした。




「おぉーい、待ってよ」
「…」

駅まであと数メートルという処で聞き慣れた声が響いた。

「待って、待ってよ、櫻子ちゃん」
「! ちょっ、いつまでもちゃん付けで呼ばないでください」
「なんで?俺の中では櫻子ちゃんはいつまで経っても櫻子ちゃんだよ」
「~~~」

この気易い毒の色気を放つ男は佐野 徹矢(さの とおや)

こんなのでも一応臨床心理学科の洵教授だ。

そして

「ねぇ、櫻子ちゃん。今夜、付き合ってくれるよね?」
「…」
「勿論今日が何の日か覚えているよね?」
「…」


残念ながらこのどんないい女だってはべらかせる事の出来るプレイボーイが私の好きな人──なのだった。

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2018.01.23 (Tue)

花筏の行方 2話



佐野さんと初めて逢ったのは今から二十年前。

大学のテニスサークルの一年先輩として紹介されたのが佐野さんだった。

はっきりいって── 一目惚れだった。

この世の中にこんな綺麗な男の人がいるだなんて信じられなかった。

だけど先輩後輩として付き合って行くうちに徐々に佐野徹矢という人となりを知って行く事になる。

類稀な其の美しい容貌通り、彼の周りにはいつも女が群がっていた。

彼自身、来るもの拒まず去る者追わず精神の持ち主の様で、見かける度に連れて歩く女はいつも違っていた。

そんな彼に嫌悪感を覚えつつもどうしても気になって惹かれてしまっている自分がいた。

だけど決して彼には私が恋をしているという態度は悟られたくなかった。


──だって自信がなかった


彼の周りには私なんかよりも数倍美しい女が常にまとわりついていた。

そんな女たちの中に飛び込みアプローチするほど自分に自信はなかった。

だから余計に彼に対して愛情とは裏腹な態度を取ってしまう。


『ねぇ、櫻子ちゃんってなんでいつも眉間に皺寄せてるの?』
『…其れは先輩の女癖の悪さに辟易しているからです』
『えぇーじゃあ俺なの?櫻子ちゃんの可愛い顔を暗くさせてるのって』
『! か、可愛いっ?!じょ、冗談は止め──』
『冗談じゃないよ?もっと笑えばいいのに』
『…』
『櫻子ちゃんの笑顔、俺がひとり占め出来たらいいのに』
『~~~』

からかわれているのだと解っていた。

彼の言葉を其のまま鵜呑みにしてはダメだと強く気持ちを引き締めた。

だけど時々囁かれる其の毒の様な甘い言葉は私の心を徐々に冒して行き…

⦅好き…好き…どうしたって大好き⦆

決して私だけのものにならない男だと知っているからこそ深入りするのは止めようと…

諦めようと思っていた。

そんな彼との付き合いで知り合った人がいた。

其れは彼と親しくしているという一年先輩の野々宮 秋穂(ののみや あきほ)という女性だった。

彼女を初めて紹介された時から彼女は彼の近しい女たちとは何処か違う雰囲気を持っているなと感じていた。

其れは何なんだろうとずっと疑問に思っていて、そんな気持ちから秋穂さんとも親しくさせてもらう機会が多くなった。


──そして気が付いたのだ


彼は秋穂さんの事が本気で好きなんだという事に。

あんなに女にだらしがない彼が実は一途にたったひとりに恋をしているのだと知った時、私の中で佐野徹矢という人物像が大きく書き換えられた。

本当は純粋に愛する気持ちを持っている人。

本当に好きな人には真摯なのだと、遠巻きから見ていて気が付いた。

だから私は益々彼の事を深く愛する様になってしまっていた。


──そして大きな事件が私に襲い掛かる事になる


其れは私が21歳の時。

大学を卒業した秋穂さんが佐野さんとは違う人と結婚した。

つまり佐野さんは秋穂さんにフラれたのだ。

秋穂さんの結婚式が行われた日の夜、私は電話で佐野さんに呼び出された。

呼び出された先はとあるホテルの一室だった。

行く事を何度も断ったけれど、ろれつの回らない云い回し、其れに訳の解らない言葉を喋っている事から尋常じゃない様子が窺え、心配になった私は結局行く事にした。

恐る恐る尋ねた部屋にはいくつものお酒の瓶が散乱していて酷い酔い方をした佐野さんがいた。

『先輩?!どうしたんですか、其の有様は』
『あ?あぁー櫻子ちゃぁん~来てくれたんだねぇ~』
『ちょっと飲み過ぎですよ!水…水を飲んで──』
『櫻子ちゃん』
『!』

力強く引っ張られた腕の反動で私の体は佐野さんの腕の中に納まり、其のまま床に押し倒された。

『秋穂…秋穂…』
『…』
『なんで…なんで清次なんだよ…俺の何処が駄目だって…云うんだよぉ』
『…』
『秋穂、秋穂…』


抵抗しようと思えば出来た。

厭だと、本気で拒めば彼は止めてくれたと思う。


──だけど私はそうしなかった


例え秋穂さんの事を想いながらでも私は彼に抱かれたかった。


例え秋穂さんの身代わりだったとしても…


⦅最初で最後の想い出にするから⦆


其の覚悟で私は佐野さんに抱かれたのだった。

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2018.01.24 (Wed)

花筏の行方 3話



「今日はデートの約束なかったの?」
「は?ありませんよ、そんなもの」
「そう。でも彼氏、いるんだよね」
「…ご想像にお任せします」

久しぶりに彼に誘われた。

其れはいつからか私と彼の間で続いているごくたまにある一種の儀式的なものだった。

「此処はね、秋穂と清次の三人で初めて飲みに来た店でさ」
「そんな昔からあるんですか?老舗ですね」
「でもそんなに古さを感じないだろう?」
「えぇ。雰囲気、いいですね」
「うん、いいんだよ。雰囲気がさぁ」
「…」

秋穂さんが亡くなってしばらく経ってから、たまに彼女の命日に飲みに誘われる事があった。

其処で私は秋穂さんとの想い出話を散々訊かされた。

そして飲み終わると決まって体を求められた。

『同情心から抱かれているんですからね』という私の言葉を彼が其のまま鵜呑みにしているのかどうかは解らないけれど、厭きもせず彼は私を抱いた。

そんな関係がズルズルと今日まで続いて来た。

其れ以外は全く濃い接触はなく、面白い様に他人行儀の関係だった。



気が付くと時計の針は22時過ぎを差していた。

「佐野さん、私そろそろ」
「もう帰るの?俺を置いてひとりで帰っちゃうんだ」
「酔っていますね」
「酔っていないよぉ。だけど明日、休みだよね櫻子ちゃん」
「だからなんですか」
「…」
「…」

もう慣れっこだ。

こういう誘われ方も。

(なんだかんだと20年…続いているんだもの)

宙ぶらりんな関係。

何ひとつ確かなものはなくてもどうしても切って離れたり出来ない関係。


──お互いが依存している様にも思えてしまうのは私の穿った見方だろうか?





「あっ…んっ」
「はぁ…相変わらず感度のいい体だねぇ」
「…誰かと比べているなら食いちぎりますよ」
「ちょ、何怖い事云ってんの!櫻子ちゃん」
「…」

グチュグチュと卑猥な音を立てて私の中を冒しまくるモノを私は緩く締め上げる。

「はぁ…この微妙な締め付け具合…最高だなぁ」
「んっ…」
「櫻子ちゃんこそ彼氏に散々教え込まれているんじゃないの?」
「…何云って── あっ」

急に奥深くをギューッと押された。

「ねぇ…んっ、なんで櫻子ちゃん…結婚しないの」
「あっ…あぁっ」
「俺の他にもこういう事する男、いるんでしょ?彼氏じゃないの」
「んんっ、あ、あっ」
「なんで俺のなすがままなんだよ…ふぅっ、厭なら…ん、徹底的に拒めばいいのに…っ」
「あん、あん、あっ…あぁぁぁんっ」
「答えてよ、櫻子ちゃん」

(こ、この状況で答えられる訳ないじゃない!)

いつもより激しい律動。

奥深くを抉る様に押してかき回される。

「あ…っ、あん、あんあんあんっ」
「其の顏…っ、俺以外の男も知っているんだよね…んんっ」
「…」

生理的な涙が止まらない。

酷い抱かれ方をされていると解る腰遣い。

荒々しく私の中を行き来する太い楔はいつまでも折れる事無く何度も何度も突き刺して来る。

そして彼は浅く喘いで、私の中でイッた。

「はぁはぁは…ぁ…っ」
「ちょっと待ってて、ゴム、替えるから」
「…もう…いいです…」
「ふっ、何云ってるの、まだまだだよ、櫻子ちゃん」
「…ぅ」

モノを抜いた私の空洞に彼の指が2本入る。

グチュングチュンと音を立て其の音を聞いただけでヒクついてくる。

「ほら、櫻子ちゃんもまだまだでしょう」
「あ…んんっ」

ズルリと中から引き出した指に纏わりついた私の愛液を彼は艶めかしい顔をして舐め取る。

(…なんて…顔して…)

酷いと思いながらも其の艶めかしさに惹かれて仕方がない。

「今夜は帰さないからね、櫻子ちゃん」
「…あっ」

彼にそう云われると、どうしたって胸が詰まって泣きたくなるのだった。

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2018.01.25 (Thu)

花筏の行方 4話



私の気持ちとは裏腹に恨めしい程の晴天に泣きたい気分になる。

「う~腰、痛い…」

昨夜から続いた激しい行為は今朝になって佐野さんが眠ってしまった事でようやく終わった。

私は其の隙をついてサッサとホテルを出てやっと自宅に戻った処だった。


シャワーを浴びている最中に体中にあった痣を見つけてギョッとした。

(これ…キスマークなの?!)

気が付かない内にあちこちに付けられていた様だ。


昨夜の佐野さんは少しいつもと違った。

いつもはとても優しく抱く人だ。

もう止めてといえば止めてくれるし、何処か相手を気持ちよくさせる事に躍起になる人だったはずなのに…

(そういえばやたら彼氏がどうのこうのって云っていたな)

なんとなくそんな事が思い出された。

私に彼氏なんていない。

というかそういう話を私は佐野さんには一切しないし、佐野さんからもそういった事を訊かれた事がなかったから、私たちの間では【彼氏】なんていうのは気に掛ける様なキーワードではなかったはずだ。

(…何かあったのかしら)

いくら20年付き合っているからといって彼の全てを知っている訳ではない。

解らない事の方が多いくらいなのだ。



「はぁ…疲れたぁ」

サッパリした体に冷たい水を流し込んで其のままドサッとソファに倒れ込んだ。

するとテーブルに置いてあった携帯が点滅している事に気が付いた。

「あ」

受信されていたメールを読んで思わず声が出た。

【今から帰るけど、何か欲しい物ある?コンビニに寄るからついでに買って行くよ】

「今から帰るって…何も用意していないよ」

同居人のいきなりの帰るコール。

昨日から1泊2日で家を留守にしていたけれど、思ったよりも早く帰宅するという事で少し慌てた。

少し考えて私は【お昼ご飯何も予定していないからお弁当でも買って来て】と返信した。

すると直ぐに【了解】とだけ返って来た。

「そうか、今から帰って来るのか…案外早かったな」

私はバスタオルを巻いたままの体をソファから起こして、そそくさと服に着替えた。

「うっ、この服だと鎖骨の処のが見える」

姿見の前で着衣を確認すると、佐野さんにつけられたキスマークが微妙に見えてしまう。

「なんか…これってわざと見える処につけているって感じがするんだけど…」

そんな訳はないと思いながらも、こうやってキスマークを付けられた事が初めてだったから妙にドキドキした。

(キスマークって…なんだかつけられた人の所有物って感じがする…)

男にしても女にしてもどういった理由からキスマークをつけるんだろうかと考えてしまう事があった。

仮に私が好きな人にキスマークをつけるなら其れは

【この人は私のもの】

という意味合いが大きいのかも知れないと思った。

だけど其れはあくまでも私の思考であって、佐野さんがそういった考えからつけたとは考えにくい。

(佐野さんは私の事を好き勝手に抱ける其の他大勢の中のひとりくらいにしか思っていないんだから)

解りきっている答えを念押ししているとなんだか哀しくなって来た。


──私と佐野さんの関係はこれからどうなって行くのだろうか


私から完全に関係を断ち切ればたちまちなかった事になる関係なのだと思うと、やっぱり瞬く間に心は哀しみで支配されるのだった。

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2018.01.26 (Fri)

花筏の行方 5話



ピンポーン


「…?」

不意に鳴ったチャイム。

(あれ、鍵持って行かなかったのかな)

私は不思議に思いながらも玄関ドアを開けた。

「どうしたの、壱矢。鍵忘れた──」
「…いちやって誰」
「!」

其処にいたのは思い込んでいた人物ではなく、つい数時間前にホテルに置き去りにして来た人物だった。

「なっ…!」
「俺をホテルに置き去りにするなんて酷いよね。これでも結構傷ついているんだよ」
「なんで…此処に…」
「家の住所なんてちょっと調べれば解るよ。櫻子ちゃんがなんで其処まで頑なに隠していたかは知らないけどさ…今、ようやく其れが解った」
「…」
「ねぇ、いちや、って誰」
「…」
「彼氏?」
「…」
「其れ、俺に隠したかったんだよね?そうでしょ、櫻子ちゃん」
「…か」
「か?」
「帰って!直ぐに帰って」
「酷いなぁ、折角来たのに。何、彼氏が来るの?」
「ち、違う…彼氏、なんかじゃ…」

先刻から体が震えて仕方がなかった。

声が上擦って上手く出ない。

すると突然

「いい加減ハッキリさせようか」
「!」

いきなりガッと手首を掴まれた。

其の力強さに骨が軋んだ。

「痛っ」
「櫻子の本当の気持ちを聞かせてよ」
「!」

『櫻子』と呼び捨てにされた瞬間、私の双眸から涙が溢れた。

「! え、櫻子ちゃ」

「おい!」

「っ!」

瞬間、佐野さんの手が私の手首から放された。

「あっ」

其のまま佐野さんの体は後ろに引っ張られ、ドンッという音と共に地面に叩きつけられた。

其の様子がまるでスローモーションの様で私はただ茫然として見つめるしかなかった。

だけど

「てめぇ、何してんだよ!」
「わっ!」

「止めて!壱矢っ」

「!」
「!」

佐野さんに馬乗りになって殴りかかろうとしていた壱矢の前に出て私は佐野さんを庇った。

「なんだよっ、止めんな!」
「殴っちゃダメ!お願い、殴らないで!」
「…」

ギュッとしがみついた佐野さんの体は微かに震えていた。

だけど其の震えは次第に治まり、しがみついている私の体を佐野さんも抱きしめ返した。

「…櫻子ちゃん、俺を庇ってくれるの?」
「…」

正直頭の中は混乱していた。

何も考えられない状況の中で気が付いたら体が勝手に動いていた。

と同時に私の心は芯から震えていた。

(…バレた…壱矢の存在が…佐野さんに)

ずっと隠し続けていた秘密を此処に来て知られてしまった事への恐ろしさで、私の体はやがて大きな震えに包まれたのだった。

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