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2017.11.12 (Sun)

秘密の穴園 1話



私は自分の名前が大っ嫌いだった。


『あーな!あーな!あなぞのぉぉー』
『ぞのの!』
『あな、のぞみまーすだって!変なのぉー』


小学生の時は特に酷かった。


何故ガキは『穴』という単語を面白がるのか?


全くもって理解不能だった。


散々からかわれ、最初の頃はいちいち反応していた私だったけれど、突っかかれば突っかかっただけからかいは酷くなった。


だから私は悟った。


(反応するからつけあがるのだ)


と。


以来私は無心になった。


変なあだ名で呼ばれ、からかわれても徹底的に無視し、且つ馬鹿みたいな子ども男子に馬鹿にされない様に文武両道を目指し、勉強も運動も懸命な努力の結果人並み以上に出来る様になった。


そして見た目の鍛錬にも力を入れるようになると不思議と馬鹿な子ども男子は名前で私をからかう事をしなくなった。


いつの間にか羨望と憧れの眼差しで見られる事の方が多くなり、私もまた其の視線にある種の優越感を感じる様になった。


以来、私は巨大な猫を被る事となる。


穴園 望(あなぞの のぞみ)11歳の事だった──







「あぁぁぁー結婚しーたーい!」
「また出たぁ、望の結婚したい発言」


校舎裏の外庭にて昼食中の会話。


私、穴園 望は高校1年生になっていた。


県内屈指の進学校に小学校からの唯一の親友である佐藤 世里子(さとう よりこ)と共に進学した。


世里子は本当の私を知る数少ない人物だ。


普段の私は周りの人々から『クールビューティー』などと噂される才色兼備で頭脳明晰な完璧女子高生だった。


だけど其の表向きの姿は小学生の時から引き摺っていた名前コンプレックスを払拭するための隠れ蓑であって、本当の私はただの性格の悪い打算的な結婚したがり女だった。


「だってさ、結婚したら苗字、変わるんだよ?!凄いじゃない、結婚って!」
「望って苗字が変わりたいから結婚したいの?」
「そうよ」
「即答」


あと数日で16歳になる私は、本格的に結婚するための相手探しを始めているところだった。


狙うは年上の男!


経済力のない学生はダメ!


要は直ぐにでも結婚してくれそうな男を探すのだ。


勿論其のためにはありとあらゆる手を尽くそうと覚悟を決めている。


いざとなったら体を使う事も厭わなかった。


「あぁ~長かった…16になるまで。だけど!これでこの忌まわしい名前からやっと解放される!」
「あのさぁ、重ねて云っておくけれど結婚したいからってそんなに直ぐに結婚って出来るものじゃないからね?」
「何を云っているの、世里子ったら。この私がちょっと本気出して『ねぇ、結婚してぇ?』って囁けば大抵の男はイチコロよ」
「其れにしたって」
「いざとなったら出来ちゃった結婚狙うし」
「…望…あんたって時々怖いよ」
「ふん、なんとでも云っててよ」


一見クールで利己的。


感情の窺えない無表情から発せられる言葉は少なく、必要最低限の事しか話さない。


勉強が出来て運動も出来る。


顔もスタイルも人並み以上。


其れが私、穴園 望。


──だけど本当の私は苗字を変える為に結婚相手を虎視眈々と物色しているただの肉食系女子高生


(本当の私がこんな阿婆擦れだって男は知らなくていいのよ)


私に見初められた男は黙って私と結婚すれば──其れでいいのだから。


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2017.11.13 (Mon)

秘密の穴園 2話



眉目秀麗、品行方正、文武両道──


穴園 望を表す四文字熟語はこんなところだった。



「穴園さん、これ先生に頼まれたんだけど」
「あぁ、其れならこの資料の此処を参考にするといいです」
「穴園さん、会計のこの箇所…何度やっても計算が合わないんだけど」
「これは引くではなく、マイナス記号です、先輩」
「穴園さん」
「穴園さん」


「…」

(あなぞの、あなぞのって…煩いわよっ!)


1年生ながら書記として生徒会に在籍している私は、自分の仕事以外の事をよく訊かれる。


訊いて来る相手はみんな私より先輩なのだけれど。


(頼まれると『厭』って云えない性質だから困ったものよね)


あくまでもクールに、極力表情に喜怒哀楽を出さないように人と接する癖がついていた私は、いい意味でも悪い意味でも頼られる人材になっていた。


上手くあしらう事も出来るのだけれど元々が長女気質。

どうしても面倒見の良さが出てしまうものだから益々被っている猫は巨大化していった。

「あ…あのぉ…穴園さん…」
「──え」


いきなりか細い声が私の背後から聞こえた。


「あの…ちょっと…いいかな?」
「高野くん」


ひょろっと背の高いクラスメイトの高野が立っていた。


「あの…今度風紀委員の会議があるんだけど…其の、生徒会からも誰かひとり参加して欲しいって…委員長が…」
「明日の放課後に予定されている挨拶運動に関する会議ね?──解りました、私が出席します」
「あ、ありがとう」


一瞬にして高野の頬が赤くなった。


長い前髪と分厚い度のきつい眼鏡を掛けているから素の表情がどうなのかははっきりと解らないけれど。


(変な人)

高野は同じクラスだけど普段から目立たず、存在感がないからクラスメイトからは空気の様に扱われているところがあった。


私から見ても、いつも席に座って本を読んでいる大人しい男子──という印象しかない。


(風紀委員にしたって誰もやりたがらないからほとんど押し付けられたって感じだったしね)


見た目、性格、年齢──其れら諸々の条件からいっても勿論高野は私の結婚相手には引っ掛からない。


(第一『高野』って苗字がダメよね)


仮に高野と結婚したら…


【高野望】=【たかののぞみ】=【たかのぞみ】=【高望み】


(ないないないない!絶対にありえない!!)


苗字は勿論大切だけど、全体の語呂にも気をつけなくてはいけない。


私が結婚相手に選ぶ条件──其の最たるものが苗字だった。





「あれ、まだ残っていたの?」
「──あ」


他の役員が帰ってからも私は明日の風紀指導会議の資料に目を通すために生徒会室にひとり残っていた。


「もう最終下校のチャイム鳴ったよ。早く下校しないと──ほら、外は暗いよ」


云われて窓の外を見ると、12月間近の17時過ぎはすっかり陽が落ちていた。


「申し訳ありませんでした──今帰ります」

声を掛けて来たのは恐らく校内の見回りをしている先生なのだろうと思った。


鞄を手に室内の電気を消灯して出た。


「本当に君は真面目だなぁ──無理していない?」
「え」

担任でも教科教師でもないからあまり面識のない先生だった。


まじまじと顔を見れば随分格好いい先生だ。


「君は知らないだろうけど俺は君を知っているよ」
「…」


先生と呼ばれる人にこんな風に話し掛けられたのは初めての事だった。


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2017.11.14 (Tue)

秘密の穴園 3話



「君、新入生代表だったからね──目立っていたし」
「そうですか」

なんだか先生らしくない人だと思った。


「君の事、生徒としても気に入っているんだけど…女としても気になっているんだよね」
「?!」


いきなり手を取られてグッと引っ張られた。


先生の顔が私の間近に迫って不覚にも顔に熱が集まった。


そんな私の様子を見て可笑しいのか、先生は少し口角を上げ「ふっ」とひと言漏らした。


「な、何をするんですか?!」
「おっ、怒った顔もいいねぇ~一瞬ゾクッとしたよ」
「!」


益々カッとなった私は居た堪れず慌てて掴まれていた手を振り解き先生から距離を取った。


「ふざけるのは止めてください」


なんとか気持ちを落ち着かせ、冷静に言葉を吐いた。


「あははっ、そう、ふざけてたの。ごめんね」
「…」


(何…この先生…)


初めて対峙した得体の知れない大人の男に対して私は免疫がなく、また経験もなかったためにこういう時はどういう態度に出ればいいのか迷った。


「ねぇ、君──穴園さん」
「なんですか」
「君、俺の絵のモデルになってくれないかなぁ」
「───は?」


突然耳を疑うような予想外の言葉に表情が凍りついた。


「心配しなくても裸じゃないから安心して?」
「当たり前です」
「あはははっ、そう、当たり前だよ。俺、清純且つ、瑞々しい綺麗な若い女の子を描きたいだけだから」
「…」
「まぁ、其の気になったら俺の所に来てよ──じゃあねぇ~」


云いたい事だけ云って先生はヒラヒラと手を振って歩いて行こうとした。


「あの」
「ん?」


思わず私は先生を引き止めてしまった。


「私、先生の名前を知りません」
「えっ、そうなの?!…俺って結構有名だと思っていたのに──まだまだって事か」
「…」
「俺は3年の美術担当で如月 秀彦(きさらぎ ひでひこ)って云うの」
「…如月」
「覚えておいてね、可愛い子ちゃん」
「…」

最後のふざけた仕草には少しムカッと来てしまったけれど…


(如月)


──悪くない苗字だわ


最初に思ったのはやっぱり其れだった。


歳上だし…まぁ少し軽薄そうな印象はあるけどなんだか私に好意的じゃない?


(でも先生っていうのはネックかな…手ごわそうだ)


そんな事を考えながら私は家路についたのだった。


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2017.11.15 (Wed)

秘密の穴園 4話



「ねぇ、お母さんってどうしてお父さんと結婚したの?」
「は?」

単身赴任で遠くにいる父抜きの生活ももうすぐ半年経とうとしていた。


やっと父のいない生活に慣れて来た穴園家は現在母と私、そして2つ年下の妹の3人暮らしだった。


女だけの家のある日の夕食時の会話──


「何よぅいきなり。色恋沙汰に無関心の望がそんな事を訊くなんてビックリするじゃない」
「あーえっと…前々から訊きたかったんだけど…機会がなかったっていうか…其の」
「お姉ちゃん、好きな人でも出来たんじゃないの?」
「ブッ」


妹の叶恵(かなえ)がいきなり変な事を云うものだから口につけていた汁物を危うく噴出しそうになった。


「えっ、そうなの?!望…あんたにもやっとそういう艶っぽい話が──」
「ち、違う!全然そんなんじゃない!」
「じゃあなんでよぉ~堅物のお姉ちゃんから色恋の話題なんて訊いた事ないよぉー」
「其れは…ずっと疑問だったの!…訊きにくかったっていうか」
「訊きにくい事なの?」
「だって普通しないでしょ?穴園なんて苗字の人と結婚なんて!なのにどうしてお母さんはって思って」

「「───は?」」


母と妹はほぼ同時に素っ頓狂な声を出した。


「何其れ…苗字?なんで?」
「…だって変でしょ、穴園って苗字」

苗字にコンプレックスがある事を今まで家族の誰にも云った事がなかったので、訊かされた母と妹は大層驚いた顔をしていた。


「変かなぁ…あたし別に拘ってないけど」
「えっ、叶恵って学校で苛められたりしてないの?!」
「苛めって…そりゃ初めて会った人で一瞬「え?」って顔された事ぐらいあるけど、世の中にはもっと変な苗字の人がいるじゃん」
「…」
「比べるのも悪いけど、変な苗字なんて大した事じゃないと思ってるよ」


叶恵が苗字に拘っていないという事を初めて知ってショックだった。


てっきり私同様家族には内緒で悩んでいる同志だと思っていたのに。


(だって『あなぞの』だよ?!どう考えたって変でしょう!)


「望がそんな事を考えていたなんてお母さん知らなかったわぁ」
「……ごめん」


何故だか申し訳ないなぁ…という気持ちになってしまう。


「えぇっと…先刻の望の質問だけど、答えはシンプル其のもの。お母さんはお父さんの事が大好きだったから結婚したのよ」
「え?」
「好きになった人がたまたま穴園っていう苗字だった、其れだけの事よ」
「……」


(好きになった人がたまたま変な苗字だったって…)


でも変な苗字だって解った時点で好きという気持ちは無くなるものじゃないんだろうか?


「ふふっ、望はまだ本当の恋をした事がないのね」
「えっ」


母ににっこりと微笑まれて絶句した。


「お姉ちゃんって勉強も運動も出来るけど、そういう事は苦手そうだもんね」
「なっ!」


叶恵にニヤニヤされながら知った風な事を云われるとなんとなく腹が立ってしまう。


「叶恵だって解らないくせに!姉に向かって生意気云わないの」
「あたし、付き合ってる人いるもーん」
「えっ!」
「あら、そうなの?やだぁーお母さん其の話、訊きたいわぁー」
「えぇー恥かしいなぁ」


「……」


まさか妹に彼氏がいるとは思わなかった私は、この日最大のショックを受けたのだった。




深夜──


なかなか眠れずに何度も寝返りを打つ。


(結婚って好きな人とするのは当たり前だと思うけれど…)


でも好きになってから変な苗字だって知ったら嫌じゃない?


(結婚してからだって愛って育つものでしょ?)


お見合い結婚とかだとそういうパターンの恋愛になると思う。

(名前で判別して結婚する──其れも正しい恋愛のひとつの形だと思う)


何度考えても私の結論は其処にたどり着くのだった──


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2017.11.16 (Thu)

秘密の穴園 5話



秘密とはある日突然露見するものだった──


「えっ、如月先生?」
「そう、何か知ってる?」


いつもの様にお昼休みは気心の知れた親友とのぶっちゃけ本音トークの時間だった。


私たちがいつもお昼ご飯を食べている外庭は人の来ない場所だった。


入口には【立ち入り禁止】の看板が張り付けられた鍵のついた金網があって、一般の生徒は入れない様になっている。


ただ私は生徒会の役員として昼休みの度に外庭を見回りする──という役目から其処の鍵を預かっていた。


其れをいい事に天気のいい日はこうして親友の世里子と静かなお昼を過ごしているのだった。


「知ってるも何も有名じゃない?若いイケメンの先生だって、大抵の女子は騒いでいるけど──って望、知らなかったの?」
「知らなかった。というか私、あんまりイケメンとかって興味ないし」
「……で、其の如月先生がどうかしたの?」
「モデルになって欲しいって云われた」
「えっ!」
「何、其の盛大な驚き様は」
「凄いじゃない!如月先生って美術の世界では結構有名な人みたいで、お金払ってまでもモデルになりたいっていう人が沢山いるって訊いたよ」
「有名?そうなの?」
「みたいだよ?前に何処かで個展するってニュースで流れてたって訊いたけど」
「──へぇ」


即結婚可能な年上。


安定した生活。


そして


普通の苗字!


(条件オールクリアじゃない?!)


私の中で静かにロックオンの言葉が固定された。


「ちょ、望、其の顔…まさか如月先生を結婚相手のターゲットに決めたとかって…思ってないよね?」
「え、思ったけど」
「止めた方がいいよ!仮にも先生だし、其れになんていうか…あんまりいい噂訊かないよ、如月先生って」
「噂?あぁいいわよ、どうせ浮気性とか女関係が派手とか…そんな類でしょ?」
「解ってるなら──」
「いいの、結婚出来れば後はどの様にでも──ってね」
「望…」


そう、兎に角私はこの穴園姓が変わればいいの。


其れだけのために必要な男──結婚なんだもん。


(好きとかっていう感情は後からついて来るものよね)


やっぱり私の考えは変わらずに、そして正しいのだと信じて疑わなかった。






「──では今日の会議は此処まで。お疲れ様でした」


例の風紀委員会の挨拶運動についての会議が終わった。


(ふぅ…全く挨拶運動だなんて面倒くさい事極まりない)


高校生相手に校門前に立って「おはようございます」と強要するなんて一体何の意味があるんだろう──と思いながらも猫被りの私は其の本音を晒すことはない。


ただ冷静な面持ちで『積極的に応対する事で生徒の中に何かを芽生えさせるきっかけになっていいと思います』と生徒会側からの意見を述べる事しかなかった。



(さて、帰ろっと)


会議室からゾロゾロと人が出る流れに乗って私も会議室を後にしようとした。


「あっ、あ…穴園さん」
「え」


いきなり背後から声を掛けられ振り向く。


「あ、あの…」
「高野くん?」


声を掛けた来たのはクラスメイトの高野だった。


(あぁ、そういえば彼も風紀委員だったのよね)


空気の様に存在感のない高野に、声を掛けられるまで全く気が付かなかった。


「何かしら?」
「あの…あの…は、話、が…」
「話?」
「…」
「?」


本当に空気のような存在感で何とも思っていなかった男子だった。


今日のこの時までは。


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