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2017.10.29 (Sun)

悪魔でSweet 1話



ずっとずっと思って来た。

夢は願えば叶うんだって事を。

叶えたい夢があるから頑張れる。

絶対に叶えたいから今まで頑張って来られたのだ。

例え其の代わりに失うものが多くあったとしても…

私は決して後悔などしないだろうと思った。


──そして其の頑張りは多くの物と引き換えに私にひとつの結果を実らせたのだった


なのに


「初めまして、竹井由治です」
「は…ぁ」

(たけいよしはる…?誰だっけ)

インフルエンザで一週間会社を休んでいた私が復帰した其の日、いきなり見た事もない若い男の子が私に挨拶をして来た。

「あぁ、竹井くん。三輪さんにはボクから紹介するよ」
「課長」

私と彼の間に割って入って来た課長は私に向かって云った。

「三輪さん、復帰早々悪いんだけど今日からバイトで入った竹井くんの指導、頼めるかな」
「バイト?指導?」

(何…どういう事?)

一瞬頭が真っ白になった。

「彼、今大学2年生で建築学科に籍を置いているんだけどね、坂上部長の遠縁って事で短期間だけど現場に慣れさせて欲しいって云って来てさ」
「僕が坂上さんにお願いしたんです。一応建築士目指しているんですけど実際に建築会社の現場で働いてみたいと思っていて」
「…コネでバイト」
「え」
「! いえ、何でも」

(危ない危ない、つい本音が口から出てしまった)

「部長からのお願いじゃ断れないでしょう?ビシバシ鍛えてやってくれって云われているし大学が休みの間だけの事なんでひとつよろしく頼むよ」
「…」

(そんな短い期間で何が学べるって云うのかしら)

やっとインフルから回復したというのにまた少し頭が痛くなった気がした。

「あの、三輪さん」
「…はい?」

彼は私の憮然とした表情を気にも留めない様ににこやかに微笑みながら声を掛けて来た。

何故か其の時ふと彼が誰かに似ている──と思った。

(えっ…あれ?)

とてもよく知っている人に…

なんとなく似ている?と思ったけれど、其れが誰なのか思い出せなかった。

「三輪さんは営業部では凄く優秀な人だと訊いています。そんな人の元で学べる事が光栄だと思っていますのでどうぞよろしくお願いします」
「…」

素直な物云い。

厭味のない笑顔。

お辞儀の角度や細かな所作までがきめ細やかで何故か不快には思わなかった。

(こんなにあからさまに厭な顔をしている私に対して…)

例え其れ等全てがおべっかだとしても妙に絆された気になってしまったのだった。




「ねぇねぇ、梢が指導する事になった竹井くんって可愛いよね~」
「…可愛い?」
「そうそう、まだ20でしょう?今が一番美味しい頃だよね」
「…美味しい?」

昼休み。

社食で部署違いの同僚と昼食を取っていると、話題の大半は新しくバイトに入った竹井くんの事ばかりだった。

「坂上部長の親戚って事は…結構有望株じゃないの?今の内に手を付けておくのもアリなんじゃ」
「いやでも相手にするかね、あたしらみたいな年増に」
「年増って、まだ25だもん」
「あのねぇ、20の子から見たらもう充分年増だよ?残念ながら」
「やだぁぁぁぁ怖い事云わないでよ~ねぇ、梢」
「──は?何が」

「「…」」

入社してから仲良くなった一応友だちと呼べる人たちではあるけれど、彼女たちの会話には時々ついて行け無くなる時がある。

「歳取った方がキャリアが積めていいじゃない。あぁ、早く管理職昇格試験受けたい」
「もう、梢ったら!そんな事ばっかり云ってると婚期が逃げていくよ」
「ってか梢って、恋愛した事あるの?」
「…」
「やだぁ、ある訳ないじゃん~梢だよ?ないない」
「其れもそうかーじゃあ此処は合コンセッティングしちゃいますか?!」
「しようしよう!」

「…」

(もう…馬鹿にして)

残念でした。

私にだって好きな人ぐらいいるんですからね。

(……まぁ…万年片想い、なんだけど)

そんな事を思ってしまってふぅとため息をついた。


三輪 梢(みわ こずえ)もうじき25歳。

実は片想い歴15年目に突入の寂しい女──だったりする。

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2017.10.30 (Mon)

悪魔でSweet 2話



私は10歳の時の初恋をずっと引きずっているこじらせ女子──だった。

(女子ではないか…もう25だし)

ふと自虐的になってしまう。

 だけど15年経っても彼への溢れる気持ちは留まる事を知らず…

(はっ、そういえば今日は…!)

朝見かけた光景を反芻しながら思わず手帖を手に取る。

「三輪さん」
「!」

急に声を掛けられドキッとする。

そして手にしていた手帖を咄嗟に直ぐ下にあるゴミ箱に突っ込んだ。

「あの、今いいですか」
「い、いいわよ。何?」
「先ほど頼まれた寿町のコンビニ件数と其の店舗間の距離の表示ですが、僕のパソコンでは表示されない店舗があって」
「あぁ、もしかしたら其のパソコン最新版にアップデートしていないかも知れない。ずっと使っていなかったから」
「じゃあ其処からする必要があるんですね」

簡潔に質問を済ませると竹井くんはカタカタとキーボードを打って行く。

(わぁ、早い。慣れたものね)

バイト──という肩書の大学生に大した仕事が出来る訳がないと思っていた私は其の思い込みを反省する必要がありそうだ。

(なんだ、結構使えるじゃない)

課長から指導して欲しいと云われた時は面倒くさい仕事がひとつ増えたとうんざりしたけれど、中々どうして。

指示した仕事は全てそつなくこなす彼に見識を新たにした。

(この分じゃ大した足手まといにはならないかな)

そう機嫌よく思いながら自分の仕事にかかる。

(…)

隣で黙々と作業をしている竹井くんの横顔をチラッと見る。

真剣な眼差しは確かに好感が持てる。

(可愛い…のかな?まぁ素直という点では可愛いのかも知れないけれど)

私は今まで男性と親しい交友がなかった。

私には叶えたい夢があったから、其れに向かってただひたすら勉強に明け暮れるしかなかった青春時代だった。

ただ一途に…

好きな人の役に立ちたいと…

ただ其れだけを望んで今まで頑張って来たのだ。

そして彼の事を思い出すとキュンっと胸が高鳴り、そしてハッと気が付く。

(…あれ?ひょっとして…)

もう一度竹井くんの横顔をチラ見する。

そして何故か顔に熱が集まるのが解る。

(あれ…あれ?竹井くんって…ひょっとして)

誰かに似ていると思っていた。

だけど其の誰かは思い当らなくて…

何故か今、彼の事を思い出すと其処にぼんやりと当てはまる竹井くんがいた。

(! い、いやいや…似てないよ?全然!)

私の好きな彼とは似ても似つかわない体格、雰囲気、顔立ち。

(うん、似ていない──よ、ね?)

頭ではそう思っていても何故だか引っかかって仕方がなかった私だった。





「お疲れ様でした」
「お疲れー」

終業時間を迎え、私は若干ふらつきながらフロアを出た。

「あ、三輪さん。お疲れ様です」
「あ…はい、お疲れ様です」
「また明日よろしくお願いします」
「…はい」

帰り際竹井くんに声を掛けられドキッとした。

其のドキッが何処から来るのか解ってしまって、でもいまいち腑に落ちない処があった。

(もう…忘れよう)

気持ちを切り替え彼に想いを馳せる。

(今朝、出社する時車から降りる処を見かけたんだったわ)

いつもビシッとスーツを着こなす其の身体つきにキュンとした。

背が高くて筋肉質で…

年相応の顔立ちはいつも自信と威厳に満ち溢れていて、一時も其処から視線が外せなかった。


バスに乗り込んだ後も心地よい振動と共にいけない妄想に耽る。

(あぁ…あの逞しい腕に抱かれたら…おかしくなりそう)

思わずこの気持ちを書き留めておきたくて私は鞄を探った。

そして気が付く。

(あ、あれ?)

いつも鞄に忍ばせていた秘密の手帖が何処を探してもなかった。

(え?!う、嘘っ…なんでないの?!)

私は青ざめながらめいっぱい鞄を広げくまなく探した。

そして脳裏にあり得ない記憶が張り付いた。

(そうだ!あの時…竹井くんに急に声を掛けられて…)

手にしていた手帖をゴミ箱に突っ込んだ事を思い出した。

(嘘嘘嘘嘘ぉぉぉ~!)

真っ青になった私は慌てて次のバス停で降りる準備をしたのだった。

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2017.10.31 (Tue)

悪魔でSweet 3話



「はぁはぁ…」

シンと静まり返った廊下を息も絶え絶えになんとか駆けていた。

(キ、キツい)

普段の運動不足のツケが此処に来て一気に返されている様な気がする。

命の次くらいに大切な手帖を探しに会社に戻って来た私。

(確かあの時咄嗟にゴミ箱に入れた気が)

昼間の事を必死に思い出しながら帰り道を引き返して会社へと戻って来た。

(だ…大丈夫…)

ゴミ箱のゴミは朝の清掃時、掃除のおばさんが回収するので今なら手付かずの状態だ。

其のままになっている。

誰もゴミ箱を漁る様な事はしない。

(大丈夫、大丈夫!)

そうやってなんとか自分に云い訊かせながら戻って来た。

既に真っ暗になっている営業部フロアまでやって来て少しホッとした。

(よかった。今日は残業している人いない)

繁忙期でないのが幸いした。

うちの会社は残業を推奨していない。

勿論差し迫った納期がある時などは話は別だけれど、なるべく就業時間内に集中してやる事に重きを置いていた。

無駄に時間をかけてダラダラと仕事をしても効率が悪いという事らしい。

(やる時にはやるっていう姿勢、好きだなぁ)

そんな企業理念も私には合っていると思った。


カチャ

静かにドアを開けて、ちいさく「お邪魔します」と呟きながらそっとドアを閉め歩を進めた。

真っ暗で何も見えなかったけれど電気を点ける事を躊躇した。

(明かりに気がついて警備員さんが来るのはちょっと…)

一応会社入口の守衛の人には忘れ物を取りに来たと告げて中に入って来てはいるけれど、出来れば巡回中の警備員に見つかる事は避けたいと思った。

徐々に暗闇に目が慣れて来て、ぼんやりと室内の様子が解って来た。

(よし、サッサとゴミ箱に)

自分のデスクに向かい其処に置いてあるゴミ箱を漁った。

カサカサと紙屑の擦れる音がする。

だけど

(あれ…あれあれ?)

ゴミ箱をどんなに探っても目的の感触には辿り着かなかった。

「嘘…なんで?!」

つい声が口から出てしまった次の瞬間

「探し物はこれですか?」
「!!」

急に背後から聞こえた声に酷く驚き、思わず机に頭をぶつけてしまった。

「痛っ」

ガンッと乾いた音が響いたと同時に私に触れるものがあった。

「!」
「大丈夫ですか」

頭を撫でられた感触がして益々パニック状態に陥った。

そんな中でも間近にあるだろう相手の顔が窓から入り込んだ月明かりでぼんやりと見て取れた。

「えっ…!あ、あなた…」
「驚き過ぎですよ、三輪さん」
「なんで…なんで此処に…」

其処に居たのは竹井くんだった。

尻餅をついている私の直ぐ傍らにしゃがみ込んでいる竹井くんが私の頭を撫でていた。

「んー其れは僕の台詞ですね。三輪さんこそなんでこんな時間にこんな処にいるんですか」
「あ…あの、私は…忘れ物を取りに…」
「忘れ物ってこれですか?」
「!」

目の前にヒラヒラと掲げられたのはまさしく私が探していた其れだった。

「ゴミ箱に捨ててありましたけど」
「捨てたんじゃないわ!……つ、つい…落として…」
「落として…ねぇ」
「…」

(何…何か…変)

先刻から妙な違和感を感じていた。

其の違和感は彼と話せば話すほどに大きくなって行った。

「こんな時間に取りに来るなんて余程大事な物なんでしょうね」
「…返、して」
「…」
「其の手帖…返して!」
「──ふっ」
「!」

其の瞬間凄く厭な予感がした。

昼間の彼のイメージとは似つかわしくない悪い感じの含み笑いをされて一気に厭な汗が背中を伝って行った。

「必死ですね。まぁそりゃそうでしょうね。まさか真面目で優秀でクールな将来有望女子社員の三輪さんがいつもこんな事を思っていて、其れを事細かに手帖に書き綴っていただなんて」
「! み、見たの?!」
「すみません、ゴミかと思って」
「~~~」

其の瞬間私の目の前はこの状況通り真っ暗闇に包まれたのだった。

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2017.11.01 (Wed)

悪魔でSweet 4話



心臓があり得ない速さで波打っていた。

「まさか三輪さんが…ねぇ」
「…」

(見られた…私の恥部)

途端にカタカタと小刻みに体が震えて来た。

ずっと秘密にして来た私の恥ずかしい部分を曝け出して来た証の手帖をパラパラと弄ぶ竹井くんが目の前にいた。

「…これ、本気ですか?」
「…」
「此処に書かれている事、全部本当ですか?」
「…」
「三輪さん、僕、訊いているんですけど」
「…て」
「え」
「して…返、して…お願い…します」
「…」

恥ずかしさと恐ろしさでボロボロと涙が出て来た。

今日初めて逢った子に、厭らしくも恥ずかしい処を見られた羞恥心にどうしようにもなくなってしまっていた。

「お願いします…返して、ください」
「…」
「お願いします…お願いします」
「そんなに頭を下げないでください」
「…え」

下げ続けた私の頭上に彼の声が降り注ぐ。

「別に返さないとは云っていませんよ──はい、どうぞ」
「…」

上げた顔の前には差し出された手帖があった。

震える手で其れを受け取ると一気に気が抜けた。

「あり…ありがとう~~」
「…」

私は手帖をギュッと抱きしめた。

私の大切な手帖。

ずっとずっと私が大切にして来た想いを綴った唯一無二の宝物。

(よかった…私の元に返って来てくれて)

私はそんな目先の喜びを嬉しく思っていたけれど、直ぐに其の喜びは姿を無くしてしまった。

「盛り上がっている処申し訳ないんですけれど、僕、其の手帖の中身コピーしましたよ」
「………は」
「全部。コピーして秘密の場所に隠しました」
「……」

一瞬何を云っているのか解らなかった。

解らなかったけれど、そんな呆けた私の意識は彼のいきなりの行動で醒めた。

「?!」

暗闇の中、不意に息苦しさを感じ、味わった事のない触感を受けた。

(え…)

其れは直ぐに私から放れた。

「三輪さんの唇って下唇がぷっくりしていて気持ちいいですね」
「……」
「何度も味わいたくなる」
「……な」

(な、なななな、何?!今のっ!)

動揺する私を余所に彼はまた私に顔を近づけ其のまま唇を重ねて来た。

(! キ…キス?!これって…キス?!)

三度目に重ねられた時になってようやくキスされているのだとハッキリと気が付き、私は慌てて彼と距離を取った。

「ちょ、ちょっと竹井くんっ…な、何…いきなりっ」
「キスしたくなったのでしただけですけど」
「したくなったからって…ご、合意もないままそんな」
「合意──いりますか?」
「はぁ?!いるでしょう!大体キスって…こ、恋人同士がするものであって私と竹井くんは──」
「其れ本気で云ってるんですか?」
「え」
「キスは恋人同士だけとしかしちゃいけないって」
「だ、だって…だってそういうもの…でしょう」

云っていて段々体が火照って来たのが解る。

そう、私は今までキスはおろか、男の人と付き合った事すらなかった。

片想い歴15年というのはそういう事なのだ。

「ははっ、そういう考えなんですね、三輪さんは」
「!」

少し小馬鹿にしたような云い方にカッとなった。

(何よ…この子、人のファーストキスを奪っておいて!)

そんな子どもじみた怒りがつい私を強気にした。

「あなた…竹井くん!いい加減にしなさい」
「はい?」
「人の物を勝手に読んだり、馬鹿にしたり其れにキ、キ、キス…とか…バイトだからってセクハラ紛いの事をしてただで済むと思っているの?!」
「わぁ、凄い」
「! な、何よ」

怒りに任せて云いたい事を一気にまくしたてた私に対して竹井くんの答えは驚くものだった。

「──バラしますよ」
「!」
「三輪さんが本当はこんな事を考えて常に身悶えていたって事、社内中の人──其れと当人にバラしますよ」
「!!」

(な…何を…)

其の瞬間、形勢は逆転した。

「先刻も云ったでしょう?僕、コピーしたって。其れ明日にでもぶちまけてもいいんですけど」
「な…なっ…」
「みんなどんな反応するでしょうね。まさかあの三輪さんが?!って驚きますよねぇ」
「~~~」

其れは今まで危惧していた一番考えたくなかった最悪のシナリオだった。

其れを今まさに実行されるか否かの瀬戸際に追いやられているのだと解った瞬間、私の勢いは面白い程に萎んでしまったのだった。

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2017.11.02 (Thu)

悪魔でSweet 5話



『 三輪さんが本当はこんな事を考えて常に身悶えていたって事、社内中の人──其れと当人にバラしますよ』

其れは完全に脅迫──だった。




「はい、乾杯~」
「…」
「あれ?声、出ていませんよ」
「…」
「手帖」
「! 乾杯っ」
「ふふっ、タイミングズレてしますよ、梢さん」
「~~~」

ざわつく居酒屋の中でカチンと合わせたグラスの音が高く響いた。

「梢さん、ささ身の梅肉シソ巻好きですか?」
「…好き」
「いかのフリッターは?」
「…好き」
「メンチコロッケは?」
「…好き~~って先刻からなんなの!」
「いやいや、いいですね、梢さんからの『好き』」
「はぁ?!」
「じゃあ僕の事は?」
「!」

急に真顔で迫られグッと表情が固まった。

「其処は満面の笑顔で『大好き』と云ってもらいたいですね、僕は梢さんの彼氏なんだから」
「~~~」

思わず眉間にしわが寄り、痛む頭を抱えてしまった。

そしてこうなった経緯をぼんやりと思い返す。


『三輪さん、みんなにバラされたくないのなら僕の彼女になってください』
『はぁ?』
『聞こえませんでしたか?交換条件なんですけど』
『…』
『恥ずかしい秘密をバラされたくなかったら僕の彼女になる事。これが交換条件です』
『な、にを云っているの?』
『あれ?頭脳明晰な三輪さんがこんな簡単な取引を理解出来ないと?』
『! り、理解出来ないわよ、なんで交換条件が君の彼女になる事なの?!変でしょう』
『変、かな。だって僕、三輪さんの事が好きだから』
『?!』
『僕、真面目な人が好きです。其れに…エロい人も』
『!!??』
『三輪さんってただ真面目で優秀なだけじゃなくて、アッチ方面も凄そうなんだもん』
『な…なっ』
『だからいいですよね。僕、絶対満足させますから。でも三輪さんといかがわしい事するには恋人にならないといけないんでしょう?だから──ね』
『~~~』

其の時一瞬見えた彼の顔はとても純粋な笑顔を浮かべていて不覚にも見惚れてしまったけれど、よく目を凝らせば漆黒の闇の中、彼の背中には悪魔の羽が見えた様な気がしたのだった。


(あぁ…悪夢だ…)

よりにもよって逢ったばかりの年下の男の子に弱みを握られ、其の上交換条件として彼氏彼女の仲になるとか…

(本当にあり得ない!)

この子はただ年上の女をからかって適当に遊びたいだけなのだ。

あの手帖を見た──という事は、彼の中で私は相当淫乱な女としてインプットされているだろうし…

(って!問題は其処よね!)

新たな頭痛のタネを見出してしまって深いため息とともに一気にグラスの中のアルコールを飲み干した。

「わぁ、梢さん、いい飲みっぷりですね」
「…」

(梢さんって…名前呼び…)

究極の選択を迫られ、私は泣く泣く彼の条件を呑んでしまった。

其の途端彼は

『ふたりの時は名前で呼びますね』

とにこやかに云った。

そして私にも名前で呼ぶ様に強要したのだけれど…

(名前…なんだっけ)

必要のない事は極力覚えない性質(たち)なので、最初に訊いたであろう彼の名前は私の頭の中にはなかった。

(あぁぁぁ!もうどうにでもなれ!)

今まで律して来た気持ちが此処に来て急にブチンと弾け飛び、もうどうなってもいいとやけっぱちになった。

(もしもの時だって…なんとか切り抜けられるよね)

20歳の若い彼はきっとこんな面白味も何もない私に直ぐ飽きてしまうだろう。

というか、そうなるに決まっている。

だって私は彼が思っている様な女では全くないのだから──

(そうよ…そうだよ!)

彼は真面目な表と淫乱な裏の、手帖によって知った私のギャップに萌えているだけなのだ。

だから私は彼に真実を教えサッサと厭きられる様に仕向ければいいのだ。

彼の持っている私のギャップ萌えイメージをぶち壊せばきっと彼は私に対して興味を無くし、本当は見た目通りのつまらない女なのだと烙印を押すだろう。

そうすればきっと手帖の件もただの妄想女の気持ち悪い戯言だという事で忘れてくれるかも知れない。

(なぁんだ…簡単な事だったわ)

急に浮かんだ名案に気を善くし、私は彼に勧められるままグラスを何度も替えたのだった。

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