不完全ラヴァーズ 1話

──この世の中に『自分は完璧だ』と云える人が一体どれだけいるのだろうか?「ねぇねぇ、香村さん」「はい」「香村さんって…ひょっとしてジュジュだったりしない?」「…え」「ホラ、ファッション誌のKILAの専属読モだった」「…」「なんかすっごく似てるんだけど、そうじゃ──」「ごめんなさい、よく似てるって云われるんですけど違います」「えっ、そう?」「そうです」「…そうかなぁ、似てるんだけどぉ」「三内さん、好きなんですか...

不完全ラヴァーズ 2話

「斎木課長?確か…36とか云ってたかな」「36?…見た目若いですね」「だよね。でもね、あの見た目に騙されちゃダメだよ」「というと?」「なんか中身は年相応におっさんくさいんだよねぇーやる事なす事」「はぁ」「所詮見た目だけだから、課長は」其の日の仕事終わり、私は三内さんに飲みに誘われアルコールを仰いでいた。ひとつ年上の三内さんは入社一年目にして会社内の様々なゴシップネタを知り尽くしていた。「営業に伊藤ってい...

不完全ラヴァーズ 3話

金曜日の夜。22時過ぎの電車はさほど混んでおらず座席に座ったマスク姿の私はうつらうつらとしていた。不意にバッグの中に入れていた携帯のマナーモードのバイブ音が聞こえた。バッグから携帯を取り出して確認してみればよく知った男からのメールだった。【今から家に行ってもいいか?】ハァとため息をひとつついて私は素早く返信した。自宅の最寄り駅に着き、足早に夜道を駆けて行った。普通に歩いたら10分かかる処を3分も早く着...

不完全ラヴァーズ 4話

『え…お、おまえ…もしかして…香村、か?』『…』『う、嘘だろぉ?!おまえ…な、なんでそんな…って、本当に本当に香村寿々子なのか?!』──あの衝撃的な再会から二年出来ればあの時からやり直せたらいいのになと時々思ってしまう。(………ん?)夢と現の境を彷徨っていた私は体に感じた違和感に徐々に目を覚ます。薄っすらと明るくなった部屋に動くものがあった。「あれ、起きちまった?」「?!」ベッドで寝ていた私の上に何故か彼が...

不完全ラヴァーズ 5話

私は生まれた時から可愛い、可愛いと賛辞を受けながら育って来た。共働きの両親に代わって私を面倒見て来た祖父母は私を溺愛し、主に食事方面での甘やかしは壮絶なものがあった。両親を始め、祖父母も揃って『これは…ヤバいんじゃないか』と気がつく頃には私はすっかりコロコロと太った健康優良児体型になっていた。顔が可愛かったせいなのかどうかは解らないけれど酷い苛めに遭う事もなく其のままの体型を維持しつつ中学に進学し...

不完全ラヴァーズ 6話

「なぁ、寿々。俺たちいい加減ちゃんと付き合おうぜ」「…」陽が昇ってお互い完全に目が醒めた頃、簡単な朝食を摂りながら他愛のない会話をする。「寿々だって俺の事好きなんだよな」「…」「中学ん時、俺に告白しただろう?好きって気持ちはあるよな」「…そんなのもう七年前の話じゃない」「じゃあおまえはなんで俺と付き合ってんだよ」「付き合っていないでしょう?単なるセックスする友だちってだけで」「セフレ扱いかよ」「…」彼...

不完全ラヴァーズ 7話

「…本っ当…信じられない」静かなリビングに虚しく私の声が響き、そして吸い込まれて行った。食べかけの朝食を片付ける気にもならず、ただソファに深く沈み込んでいるだけだった。彼が出て行ってから一時間。ずっとこんな具合だった。専門学校を卒業して私よりも二年早く社会人になっていた彼の勤務地がたまたま私のマンション近くだった。SEとして働く彼は新人らしく忙しい日々が続き、電車で10駅先にある実家に帰るよりも徒歩圏内...

不完全ラヴァーズ 8話

──いつもの憂鬱な月曜日がやって来た「おはようございます」「おはよ~って…香村さん、なんか顔色悪くない?」「えっ、そうですか?」(なんだか鋭いなぁ…三内さん)「肌に張りがないし…ひょっとして泣いた?」「…いえ…別に」(色々鋭い!三内さん)彼と別れてからの今日まで散々だった。彼への気持ちを吹っ切るために色んな気分転換を図ったけれど、結局夜寝る頃には二年分の想い出が蘇って来てシクシク泣いてしまう始末だった。...

不完全ラヴァーズ 9話

もう何度も味わったこの喪失感と焦燥感。そんな心に痛い気持ちを抱きながらも毎日は過ぎて行き、そしてまた週末がやって来る。「すずぅ~」「えんちゃん、久し振り」金曜日の仕事終わり、約束していた友人の森川 円加(もりかわ まどか)との待ち合わせ場所に来ていた。今風の創作居酒屋の個室に女二人。気兼ねなく愉しめるという予感しかなかった。「元気だった?仕事、慣れた?」「うん、まぁまぁかな。えんちゃんは?」「あたし...

不完全ラヴァーズ 10話

『あたしね、ずっと虐待されていたの』『え』『両親からネグレクトされて来て…中学生になる頃に養護施設に引き取られたんだけどね』『…』円加と友だちになったきっかけはとある自己啓発セミナーに参加した事だった。大学に入った年にある人から誘われて参加した其のセミナーで出逢い、同じ歳だという事がきっかけで話をする様になった。お互いの心の傷を曝け出し話し合う事で私と円加は急速に仲良くなったのだった。「じゃあね、す...

不完全ラヴァーズ 11話

指定された待ち合わせ場所は昔何度か連れてってもらったバーだった。カラン「いらっしゃいませ」薄暗い店内に点在するシート席。店内の一番奥のカウンター内からマスターの挨拶が聞こえた。其方に視線を移すと目的の人が軽く手を振っていた。「…こんばんは」「こんばんは──久しぶりだね」「…」カウンター席の左端から二番目に座っていた彼。私は流れる様に一番左端に座った。「突然呼び出して悪かったね」「いえ…」そんな他愛のな...

不完全ラヴァーズ 12話

岸岡 淳也──彼は私が読者モデルをしている間お世話になったスタイリストだった。大学1年の時、街でスカウトされ【KILA】の読者モデルになった私を初期の頃から担当してくれた人だった。岸岡さんは数多くいる若手スタイリストの中でも群を抜いて注目を浴びている人だった。スタイリストとしての手腕は勿論評価が高く、其の上岸岡さん本人がモデルの様な容姿をしていて、そんな彼に纏わりつくモデルは多くいた。そんな岸岡さんに私も...